ニール・ブロムカンプ監督ならではの表現
さらに見どころになっているのは、そんなリアリティを重視した撮影に、分かりやすくCG(コンピューター・グラフィック)が使用され、ヤンが部屋でゲームをしている場面と現実のレースとの境界が曖昧になっていく、クライマックスの描写だ。
ヤンは多くのシーンで、ヴァーチャルと現実とのギャップに苦しみ、その溝を埋めようと努力を重ねてきた。まるでゲーマーであることが足枷であるかのように。しかしこの瞬間から、ヤンはゲーマーであることを利用し、ついにその優位性を現実のレースで最大限に発揮するのである。
『グランツーリスモ』
これはまさに、ニール・ブロムカンプ監督が『第9地区』や『エリジウム』で表現していた、弱者から強者への“蜂のひと刺し”なのではないか。イギリスの労働者階級出身であり、かつゲームばかりやっている社会不適合者だと周囲から見られてきたヤンが、権勢を誇ってきた従来のプロドライバーたちを軽快に抜き去り、現実の世界で凌駕するのである。これほど痛快なことはない。そしてそれは、実現不可能と思われた夢が叶う瞬間でもあるのだ。
そういった描写は同時に、これまで現実を模倣してきたヴァーチャル技術が、現実を一歩乗り越える瞬間でもある。近年、ゲームはこれまでになく映画表現に接近し、映画もゲームの領域へと手を伸ばしている。ドライビングシミュレーターの開発や、ゲーマーの少年の夢が、現実の世界に奇跡を起こしたように、本作『グランツーリスモ』は、実写映画と仮想世界の境界を描く難題に挑み、後続の道を切り拓いたチャレンジングな一作だといえるのだ。
文:小野寺系
映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。
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『グランツーリスモ』
9月15日(金)全国の映画館で公開
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント