2017.08.19
史上最も有名な「クリスマス+天使」の映画といえば?
かくもクリスマスに天使や奇跡を持ち出すことを避けた『ラブ・アクチュアリー』だが、もちろん歴史上にはこれらを当然のごとく持ち出して暗闇から抜け出し、華やかなハッピーエンドを迎える作品が溢れている。それでは「クリスマス=天使」という設定を扱った史上最も有名な作品といえば・・・? 考え始めてたった二秒で答えが出た。それは紛れもなくフランク・キャプラ監督による超名作『素晴らしき哉、人生!』(1946)だろう。
アメリカではクリスマスシーズンに必ずTVオンエアされる風物詩としてあらゆる世代に愛される本作。根っからの善人として街のため、家族のために全力を尽くし続ける主人公ジョージ(ジェームズ・スチュアート)は、人生最大のピンチに見舞われたのを受けて「もうダメだ」とばかりに橋の上から飛び降りようとする。だが、そこに現れるのは翼を持たない二級天使のクレランス(ヘンリー・トラバース)。主人公に「君の生まれなかった世界」を垣間見せることで自分の存在意義に気づかせ、死を思いとどまらせる。そして映画はクライマックスの大きな感動へと流れ込んでいく。
天使の気の良さそうな表情がなんとも言えない微笑みをもたらしてくれる本作。だが面白いことに、天使は決して“巨大な奇跡”をもたらすわけではなく、あくまでジョージに自死を思いとどまらせるのみ。最終的な「結末」はむしろ、愛すべき妻の呼びかけに応じて、街の住民一人一人が、自分の意志に基づいて成し遂げたことと言える。ここが実に心震えるところであるし、自らの行動こそが結果を引き寄せるという点において極めてアメリカ的ということもできるのだろう。おっと、この顛末については是非ご自分の目で確かめていただきたい。人々が真心を寄せ合う姿に大きな感動をもらえること請け合いだ。
これまで見てきたように、『ラブ・アクチュリー』も『素晴らしき哉、人生!』も、共通するのは“奇跡の安売り”でないところ。かくも日常のさりげない幸せを肯定するかのような描写の数々は、神やサンタが目の前に現れるよりもずっと現実的で、人々の共感を呼びやすいのかもしれない。これらの作品は、天使が降臨しても、降臨しなくても、身の回りのささやかな幸福について気づかせ、考えさせてくれる愛すべき作品たちなのである。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『ラブ・アクチュアリー』
価格 ¥1,500+税
発売元・販売元 株式会社KADOKAWA
(c)Photofest / Getty Images