『ダイ・ハード』アクション映画を高度な次元へと押し上げた功績を探る！

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2018.06.23尾崎一男

マイケル・ケイメンの果たした音楽的偉業

　しかし、そんな偉大な作家の単なるオマージュで終わらないのが『ダイ・ハード』の優れた点だろう。

　マクティアナンが「歓喜の歌」そして「雨に唄えば」という、『時計じかけのオレンジ』に通じる音楽モチーフを引用した背景には、彼の中で『ダイ・ハード』のテロリストが『時計じかけ〜』劇中で超暴力をふるう主人公アレックスの「直系の子孫」として捉えることができ、こうした音楽的引用をもってテロの存在を風刺したのだと語っている。

　ところが『ダイ・ハード』の音楽を手がけたマイケル・ケイメンは、ヴェートーヴェンを用いるアイディアに疑問を抱き、それでなくとも暴力的な映画に対して批判的な態度を示していた。しかしリクエストにしたがい、両方の曲をオリジナルスコアに溶け込ませ、わずか４週間という作曲期間を経て、監督の意図を音楽で具現化させたのである。

　なによりケイメンは、これを実行するのに適した作曲家だったといえるだろう。2歳で音楽教育を始めた彼は、名門ジュリアード音楽院でオーボエを学んだ後、バロック音楽とロックの融合を目指したバンド「ニューヨーク・ロック・アンサンブル」を結成したことからプロのキャリアを開始している。そして1979年にはプログレッシブ・ロックバンド「ピンク・フロイド」のアルバム『ザ・ウォール』でオーケストレーション・アレンジを担当。ロックとクラシック音楽のコラボレーションによって知名度をあげ、映画のスコアリングへの移行をスムーズにしたのだ。

　ケイメンは言う。「クラシックの音楽家は、偏屈な性格の人物と判断されているけれど、ロックミュージシャンと同じくらいの情熱を持っているんだ」

　今やハンス・ジマー（『ダークナイト（08）』）やトレヴァー・ラビン（『アルマゲドン（98）』）、ダニー・エルフマン（『シザーハンズ（90）』）やトレント・レズナー（『ドラゴン・タトゥーの女（11）』）など、ロック畑のミュージシャンが映画音楽を手がけるのは珍しくはないが、そのパイオニアとしてケイメンは、本作にてひとつの大きな成果をあげている。『ダイ・ハード』製作から30周年。マイケル・ケイメンもまた、このアクション映画史における重要なキーパーソンであり、今もつくづくその早逝が惜しまれてならない（享年55歳）。

参考資料・文献：

Eric Lichtenfeld“DIE HARD:LIMITED EDITION ”soundtrack　CD liner notes（lalalandrecords）

『ダイ・ハード』Blu-ray音声解説／ジョン・マクティアナン(監督) &ジャクソン・デゴビア(美術)（20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン）

文：尾崎一男（おざき・かずお）

映画評論家＆ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「熱風」、Webメディアに「映画.com」「ザ・シネマ」などがある。加えて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット［映画ガチンコ兄弟］を組み、TVやトークイベントにも出没。Twitter: @dolly_ozaki

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