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『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』ハーヴェイ・カイテル、狼の咆哮

© 1992 Bad Lt. PRODUCTIONS, INC

『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』ハーヴェイ・カイテル、狼の咆哮

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“神の不在”、“贖罪”と“赦し”



 筆者が興味深く感じるのは、ハーヴェイ・カイテル演じるLTがニューヨーク・メッツではなく、ロサンゼルス・ドジャースに賭けていること。強打者ダリル・ストロベリーの奮起を期待して、彼は西海岸のチームに大金をベットし続ける。


 彼はなぜ、地元チームのメッツを応援しないのだろう。もちろんオッズの関係もあるのだろうが、それ以上にニューヨークという街に対する強烈な嫌悪があるのではないか。腐敗と暴力に溢れたゴッサムシティ。神に見放されたソドムの市。LTはとことんこの街を憎み、“神の不在”に怒りを燃やす。LTは自分がカトリックであることを認めており、子供たちもカトリック系の学校に通わせている。だからこそ彼は、神がこの街に救いの手を差し伸べないことに絶望を感じている。最も憎むべき対象は、他ならぬ自分自身なのだから。


 彼はそんな現実から目を背けるように、アルコールに溺れ、ドラッグに溺れ、セックスに溺れていく。強烈なのは、クラブ帰りの少女を詰問するシークエンス。彼は言う通りにすれば運転免許不所持を不問にすると約束して、一人にはスカートをめくり上げるように、もう一人には性行為の真似をしろと言い放つ。怒鳴り散らしながら、自慰行為に耽る。我々は、少女の手に大きな十字架の指輪がはめられていることに注意すべきだろう。それは刑事の立場を利用したサイテー行為であるのみならず、神に対する挑戦でもあるのだ。



『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』© 1992 Bad Lt. PRODUCTIONS, INC


 『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』は、“神の不在”を描いた物語であり、“贖罪”と“赦し”に関する物語である。教会でチンピラ2人組に襲われた修道女に、LTは「自分が法に代わって裁きを受けさせる」と悪魔の囁きをする。もし彼女がその申し出を受けたなら、この映画は『狼よさらば』(74)や『タクシー・ドライバー』(76)のような、ヴィジランテ・ムービーの装いを纏ったことだろう。


 だが、イエス・キリストの言葉をしっかりと心に刻んでいる彼女は、自分を襲った犯人たちさえ「愛する存在」だと語り、その申し出をきっぱり断る。キリストの反逆児LTは、怒りの矛先をどこに向けていいか分からず混乱し、錯乱する。そして文字通り“神”と対峙した彼は、怒りとも哀しみともつかない声で、「うぉんうぉん」と叫ぶ。…いや、「うぉんうぉん」が正しいのか、「わーんわーん」のほうが適切なのか、筆者には正直よく分からない。テキストに書き起こすことができない、魂の叫び。それはまるで、狼の咆哮のようだ。


 やがてLTは、犯罪者に“赦し”を与える存在となる。まるで、俗悪なるものと聖なるものは同一の存在であるかのように。それは、マーティン・スコセッシが終生に渡って取り組んできたテーマでもある(スコセッシは90年代で最も好きな10本のうちの1つにこの作品を取り上げている)。“神の不在”、“贖罪”と“赦し”。ハーヴェイ・カイテルが狼の咆哮をあげた瞬間、この作品は異形の傑作となったのだ。


(*1)、(*3)、(*4)https://www.imdb.com/title/tt0103759/trivia/?ref_=tt_trv_trv

(*2)https://www.denofgeek.com/movies/abel-ferrara-interview-driller-killer-bad-lieutenant-body-snatchers/



文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。



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作品情報を見る



『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』

2024年1月19日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー

配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム

© 1992 Bad Lt. PRODUCTIONS, INC

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