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『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』ハーヴェイ・カイテル、狼の咆哮

© 1992 Bad Lt. PRODUCTIONS, INC

『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』ハーヴェイ・カイテル、狼の咆哮

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粗野で無骨なタフガイ



 元々の構想では、この映画は“笑える”作品になるはずだったという。ファットボーイ・スリム「Weapon Of Choice」(00)のビートに乗せて、仏頂面クリストファー・ウォーケンが踊りまくるMVは当時話題になったが(監督はスパイク・ジョーンズ!)、あらゆる悪事に手を染める刑事という役柄と、死んだ目をしたウォーケンという取り合わせが、微妙な可笑しみを醸し出す計算だったのかもしれない。もし本当にコメディ映画として作られていたら、『俺たちバッド・ルーテナント!』みたいな邦題をつけられていたかも。


 だが少なくとも編集のアンソニー・レッドマンは、クリストファー・ウォーケンの芝居と見比べて、ハーヴェイ・カイテルの方が適役だと考えた。なぜなら、「クリスはこの役にはエレガントすぎる。ハーヴェイはエレガントではない」(*3)と感じたからだ。わりと失礼な感想だと思うが、それが偽らざる想いだったのだろう。



『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』© 1992 Bad Lt. PRODUCTIONS, INC


 粗野で無骨なタフガイ。『ミーン・ストリート』(73)の街のチンピラといい、『デュエリスト/決闘者』(77)の好戦的なフランス軍中尉といい、『レザボア・ドッグス』の昔気質な犯罪者といい、確かにこれまでのフィルモグラフィーで、ハーヴェイ・カイテルはそんな役を数多く演じてきた。同時に彼の背中には、何かしら悲哀のようなものが、べったりと貼り付いている。自分で自分をどうすることもできない哀しみ。どうしようもないマイ・ライフから脱却できない苦しみ。エレガントではないからこそ、中年男の哀愁が滲み出てくる。


 アベル・フェラーラは、この脚本をおよそ2週間で書き上げたという。しかし撮影時にはシナリオに頼ることなく、その場でセリフや動きをどんどん即興的に膨らましていった。脚本監修のカレン・ケルサルはこう証言する。


 「アベルは脚本にこだわりませんでした。彼は脚本を映画製作の資金を得るための手段として使い、私たちはそれを "デイリー・ニュース "と呼んでいました。脚本は毎日変わった。シーンの途中でさえ変わったんです」(*4)


 自由なインプロビゼーションが許される状況であればあるほど、ハーヴェイ・カイテルの俳優としての経験値、本能的なカンが研ぎ澄まされる。ノット・エレガントな彼の佇まいはより強固なものとなり、LTというキャラクターが生き生きと躍動する。90年代を代表する暗黒系インディーズ映画は、そのような環境で生まれたのだ。





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