2024.02.07
デジタルネイティブが起こす新時代の革命
このような若者たちや、小口の投資家たちが団結した背景にあるのは、アメリカの著しい格差問題だ。アメリカでは、50パーセントの人々が国全体の富の2パーセントしか持っておらず、逆に上位1パーセントの富裕層が、富の3分の1を所有しているという、異常事態に突入している。経済学者のロバート・ライシュが指摘するように、これは企業を持つ富裕層と、政治家が癒着することによって、資産を持つ者を優遇するような政策が、長年続けられていたためだ。
こういった不公平な状況にもかかわらず、大半の“持たざる者”たちが現状に甘んじるしかないのは、この社会システムが周到で巧妙であり、抵抗することが難しい状態に貧困層が追い込められていたからだ。このような著しい経済格差を生み出す、先鋭化した資本主義の構造は、アメリカはもちろん、日本を含め世界中で見られるものだ。その意味で、「ヘッジファンド」に鉄槌を下すかのような、今回の「ゲームストップ株騒動」は、“持たざる者たち”の、富裕層への逆襲であったと考えられる。
本作に登場する人々は、株価が上昇し、利益を確保できる状況になっても株を売却せず、購入を継続すらしていく。もちろん、持ち株を公開しているキースも、大金持ちになれるほどの株を手にしていたとしても、発案者、煽動者として、それを売ることができないでいる。もはや損得の問題を超えて、イデオロギーの闘争、生きる上での信念の問題にまで発展しているのである。だからこそ、「ゲームストップ」の株価は、さらに上昇していって、「空売り」で利益を上げていた富裕層に打撃を与えることになったのだ。まさに、インターネットの繋がりが生んだ、新時代の“革命”といえるかもしれない。
『ダム・マネー ウォール街を狙え!』© 2023, BBP Antisocial, LLC. All rights reserved.
しかし、ここで大きなトラブルが発生する。騒動の中心となっていた「Reddit」内の投資家たちのフォーラムへのアクセスが突然遮断され、同時に若者たちの利用していた投資アプリで「ゲームストップ」株を買うこともできなくなってしまったのである。情報交換の手段や購入の手段を一部失ったことで、“持たざる者”たちの“革命”に、暗雲が立ち込める。これは、富裕層たちによる妨害なのか。この事態によって、株価が下がるかもしれないという恐怖が襲う。キースを含め、“持たざる者”たちは株売却の誘惑に悩まされ、本作の展開は混迷を極めていくのだった。
同時に、動画配信の呼びかけによる株価の操作には、危険な匂いがするのも確かだ。キースのような人物は、“持たざる者”の救世主として注目を集めたが、発信力のある人物が人々を煽動することによって、市場を牛耳ることができるようになっていくと、それはそれで健全性が失われていくのではないかという危惧も生まれるのである。日本においても、動画によって陰謀論が流布されたり、動画配信者が次々に逮捕されるなど、新たな発信手段が社会を混乱させていることも確かなのだ。
だが、まさにこのような問題は、希望も含めて、いまの社会に横たわる現実そのものであることも事実。そう、本作『ダム・マネー ウォール街を狙え!』が切り取ったのは、デジタルネイティブが社会を覆っていく過程での、“現実”の一場面なのである。このような出来事は、近い将来、どのような展開を見せ、われわれに影響を与えていくのだろうか。少し楽しみでもあり、かなり不安でもあるのだ。
文:小野寺系
映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。
Twitter:@kmovie
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『ダム・マネー ウォール街を狙え!』
2月2日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー中
配給:キノフィルムズ
© 2023, BBP Antisocial, LLC. All rights reserved.