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『マンハッタン』NYを象徴する「絵」、そして時代とともに変わる評価

(c)Photofest / Getty Images

『マンハッタン』NYを象徴する「絵」、そして時代とともに変わる評価

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42歳の男と17歳の少女の恋愛関係



 このように時代を経て観ることで、印象が変わるのも映画の特質である。しかし『マンハッタン』の場合は、時を経ることで、もうひとつの“変化”を起こす。その後のウディ・アレンの人生を考えたとき、冷静には観られない作品になってしまったのだ。


 TV番組の脚本家である42歳のアイザック(ウディ・アレン)は、17歳の高校生トレーシー(マリエル・ヘミングウェイ)が恋人で、同棲生活を送っている。そこに編集者メリー(ダイアン・キートン)と惹かれ合っていくドラマ、同性の恋人ができた前妻(メリル・ストリープ)との関係などが絡み合う、きれいな表現を使えば「大人のラブストーリー」ではある。しかしアイザックとトレーシーがひとつのベッドで慈しみ合うなど、現在の感覚からするとかなり危うい描写があるのも事実だ。


 このアイザックとトレーシーの関係は、ウディ・アレンの私生活がヒントになっており、そこも冷静に観られない一因だろう。『マンハッタン』の2つ前の作品でアカデミー賞作品賞受賞の『アニー・ホール』(77)の際、オーディションに来た高校生のステイシー・ネルキンに、ウディ・アレンは魅せられた。彼女のためのシーンは本編でカットされることになるが、当時41歳のアレンは、17歳のステイシーと交際を始める。彼女も本気になり、肉体関係もあったという。この年齢差のある恋愛実体験が『マンハッタン』のモチーフとなった。



『マンハッタン』(c)Photofest / Getty Images


 アレンがトレーシー役をオファーしたのは、文豪アーネスト・ヘミングウェイの孫娘である当時17歳のマリエル・ヘミングウェイ。姉のマーゴ・ヘミングウェイが主演した『リップスティック』(76)に、妹のマリエルも出演しており、それを観ていたアレンが本作に最適だと感じた。結果的にマリエルは、演技の経験がわずかだったにもかかわらず、『マンハッタン』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされる。それだけアレンの目は確かだったわけだが、撮影後、アレンはマリエルをプライベートのパリ旅行に誘うなど、真剣に彼女に惹かれていたようである(その旅行は実現せず、恋愛関係にはならなかった)。ちなみにマリエルがノミネートされた助演女優賞を受賞したのは、『マンハッタン』にも出演したメリル・ストリープ。『クレイマー、クレイマー』(79)での受賞だが、この2作でのストリープの役どころには共通点も多い。


 この一連の流れと『マンハッタン』の物語は、後にウディ・アレンが養女のスン=イーと結ばれたことを知って振り返ると、じつに生々しく感じられる。しかし公開当時は、アレンが『アニー・ホール』に続いて傑作を撮ったと高く評価され(その間の『インテリア』(78)は賛否両論だった)、主人公と10代の少女との恋愛に関しても多くの観客はすんなりと受け入れていた。それも“時代”なのだろう。「ラプソディ・イン・ブルー」をはじめ、ジョージ・ガーシュインの名曲だけを使ってストーリーに鮮やかに当てはめた構成や、名カメラマン、ゴードン・ウィリスのあまりに美しいモノクロ映像などによって、映画芸術として絶賛されたのだ。




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