2024.04.12
故郷、ネブラスカ州オマハ
もうひとつの共通点は物語の舞台だ。『アバウト・シュミット』の脚本は、ペインがUCLA在学中に書いたオリジナル脚本『The Coward』と、ポーランド人の作家ルイス・ベグリーの原作小説をミックスしたものだ。だがペインは、物語の舞台を原作に書かれてあるニューヨーク郊外の高級リゾート地ハンプトンズから、ネブラスカ州のオマハに変えている。言うまでもなく、オマハはペインの生まれ故郷だ。実際にシュミットの旅が撮影されたのは、オマハを起点に、ネブラスカ・シティ、ミンデン、カーニー、州都のリンカーンなど、ネブラスカ州内にほぼ収まっている。海を望むロングアイランドからアメリカ中西部の保守的な街に舞台が変わったことで、俄然ペインが得意とする地方都市の空気感満載のコメディに仕上がった。
『アバウト・シュミット』(c)Photofest / Getty Images
ペイン作品でオマハが登場するのは他にもある。麻薬漬けで無責任な妊婦が突然中絶議論に巻き込まれる『Citizen Ruth』(96)、『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』にもオマハが登場する。ペインがオマハ以外の場所で撮影した『サイドウェイ』のカリフォルニア、『ファミリー・ツリー』のハワイ、そして、『ホールドオーバーズ~』のマサチューセッツの場合は、どうしてもそこでなければいけなかった必然性がある。
そして、ペインは今もオマハに住んでいて、今年100歳になる母親の介護をしながら映画を作り続けていることが、”The Guardian誌”のインタビューで本人の口から明かされた。実際には、オマハの自宅とL.A.に借りているアパートの間を行き来しているとのこと。故郷への強い愛着が、ハリウッドのメインストリームからは背を向け、巨大資本とは無縁な作品を作り続けている原動力になっていることも確かなようだ。また、ペインは祖父の故郷であるギリシャの市民権を獲得していて、今後はギリシャを起点にヨーロッパで映画を作ることも視野に入れているのだとか。屈折した主人公と皮肉なユーモアは、むしろヨーロッパ的とも言えるし、活躍の場が一気に広がることが期待できそうだ。