一人二役で演じる斬新な試み
実のところ、脚本家のフランクが脚本上で想定していた主演俳優の人数は4人。40年代の音楽家の男女、そして90年代の記憶喪失の女と私立探偵は、それぞれ全く別の俳優によって演じられるはずだった。しかし監督と主演を引き受けたブラナーはここで新たな方向性を打ち出す。すなわち、自分自身と当時の妻エマ・トンプソンの二人で、つまり一人二役で計4つの役柄を演じ切ると宣言したのだ。
「輪廻転生」という概念をストーリー上で機能させるには、観客が納得しうる、それ相応の説明的なくだりが必要だ。仮に演者が脚本通りの4人だったとするなら、各々の容姿が全く異なることから、各々の結びつきを示す説明が極めて複雑なものになっていたはず。一方、ブラナーが試みたようにこれを2人で演じると、同一の俳優が二つの時代に姿を現すだけで、そこには何らかの時を超えた繋がりがあることがスムーズに伝わる。もちろんこれを成立させるには、俳優としての揺るぎない力量と二人のコンビネーションの確かさが不可欠なわけだが、結果的にこのケネス&エマの一人二役のキャスティングが本作をわかりやすくしたと言っても過言ではない。
『愛と死の間で』(c)Photofest / Getty Images
脇役ロビン・ウィリアムズが作品にもたらしたもの
とは言え、世の中には輪廻という概念について懐疑的な人も少なからずいる。欧米では特にそうらしい。かくなる土壌で効果的にストーリーを展開させるには一体どうすべきか。
スコット・フランクの脚本が優れているのは、ケネス・ブラナー演じる主人公=私立探偵をまさにその懐疑的な側の役柄に設定し、目の前の事態に「まさか!?」「そんなわけはない!」とリアクションを取らせつつ、彼にとって最も信じがたい顛末へ自らの力で歩んでいかせている点である。
また、輪廻とカルマをよく知る専門家が登場するのも見逃せない。元精神科医で現在はスーパー店員として働くその男を演じるのはロビン・ウィリアムズ。言わずと知れた80〜90年代のスーパースターが、こんな小さな役で出演しているのも驚きだ(どうやらスタジオ側が彼の起用を要望したらしい)。アドリブの宝庫のような演技にブラナーも最初はかなり戸惑ったらしいが、しかしどこか危なっかしくて謎めいた空気を漂わせる彼がスーパーナチュラルな現象について説明してくれることで、一気に物語に説得力が増す。思えばこの時代、『羊たちの沈黙』のレクター博士といい、『バックドラフト』(91)の放火魔バーテルといい、悩める主人公に別の次元から助言を与える特殊な役柄が頻出していたように思えるのは私だけだろうか。