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『愛と死の間で』名脚本家の筆致とケネス・ブラナーが絶妙に溶け合った輪廻転生サスペンス

(c)Photofest / Getty Images

『愛と死の間で』名脚本家の筆致とケネス・ブラナーが絶妙に溶け合った輪廻転生サスペンス

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カラー映画にモノクロを取り入れるという決断



 作り手たちが下した重要な決断がもう一つある。それは全編カラーで撮影した映像を部分的にモノクロパートへ変えるということだ。過去と現在が入り乱れる複雑な筋書きの中、こうして現代はカラー、過去はモノクロという具合に区別化した方が、観客にとってよりわかりやすいのではないかと考えたのである。


 実は、この英断がなされたのは、絢爛豪華な仮面パーティーをはじめとする過去シーンをカラーフィルムで撮り終えた後のこと。これほど大規模なシーンをゼロから作り直すわけにはいかないから、結果、これらの映像は全て後からモノクロ現像されることに。


 カラーを念頭に準備を進めてきた衣装、美術、撮影スタッフにとってはショックも相当大きかったはずだ。しかし痛みを伴うこの措置には、誰が見ても歴然とした効果があった。話の流れはこれによって極めて明快に理解できるようになり、クライマックスへ向けてのジェットコースターのような疾走感も増した。まだ30代になったばかりのケネス・ブラナーの統率力、決断力の確かさにはまったく舌を巻くばかりである。



『愛と死の間で』(c)Photofest / Getty Images


 ちなみに、若気の至りか、あるいはブラナーならではの禁断症状か、よく見ると細部にストーリーとは関係のないシェイクスピアの小ネタが散見できて、これまたニヤリ。冒頭に登場する囚人番号「25101415」はヘンリー5世のアジャンクールの戦いの年月日だったり、ブラナーが怪しい男と格闘する場所が「シェイクスピア橋」(実在する橋らしい)だったり。他にもこっそり埋め込まれたネタはいくつかあるのかもしれない。


 かくも一本の中に、伝えるべき主要な筋書き、それを成立させるための技法やアイデア、よりよくするための決断、はたまた遊び心を詰め合わせた本作。全てのバランスが絶妙で話の流れにもいっさい淀みがないこの映画の輝きは、誕生から30年以上が経過した今なお、宝石のように全く色褪せることがない。何度も見直して堪能したい、それに値する一作である。


参考資料:『愛と死の間で』(パラマウントジャパン)DVD音声解説



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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