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『ビバリーヒルズ・コップ2』エディ・マーフィのアドリブ演技を巧みに活写したトニー・スコットの監督術

(c)Photofest / Getty Images

『ビバリーヒルズ・コップ2』エディ・マーフィのアドリブ演技を巧みに活写したトニー・スコットの監督術

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エディ・マーフィという素材の鮮度を損なわない



 2012年に亡くなったトニー・スコットが、キャリアの後年、常に複数のカメラを同時に回しながら撮影を進めていったのはよく知られる話だ。こうすることで無駄にテイクを重ねずともスピーディーに撮影を進めることができ、制作費の抑制にも繋がる。


 この手法をどうやって体得したのか個人的にも非常に気になっていたのだが、『ビバリーヒルズ・コップ2』のDVDに収録されているインタビュー映像によると、この映画の時点ですでにスコットが「2つのカメラを同時に回す」ということを実践していたというから驚きだ。その背景にあったのはエディ・マーフィの演技だったという。


 脅威のアドリブ力ゆえに何が飛び出すかわからない(そこが爆発的に面白い)マーフィの場合、一瞬一瞬がまさに生き物であり、テイクごとに同じ演技を何度も再現することなど不可能だ。だからこそ二つのカメラを使ってその瞬間を活写することが大きな意味を持つ。ある時は”引き”と”寄り”を同時に撮り、また会話シーンでは演者それぞれにカメラを向けて両者の表情を同時に撮ったり。こうすることで演技の鮮度を損なうことなく、現場で起こる化学反応も逃さず、必要な映像を一気に撮り切ることが可能となるわけだ。



『ビバリーヒルズ・コップ2』(c)Photofest / Getty Images



室内に貼られたスタローンのポスター



 蛇足かもしれないが、お馴染みのキャラクター、ローズウッド(ジャッジ・ラインホルド)が住む部屋にデカデカと貼られているシルヴェスター・スタローンの映画ポスターについても触れておきたい。


 まず踏まえるべきは、『ビバリーヒルズ・コップ』シリーズがもともとスタローン主演で企画始動していたこと。それもスタローンの持ち味に即してシリアスなアクションがちりばめられた作品になる予定だった。しかし想定される予算が膨大になったため企画が立ち行かなくなり、結果として「スタローンOUT、エディ・マーフィIN」という顛末へ流れ着くことに。この時に日の目をみなかったアクションのアイディアは、スタローンがその後の作品『コブラ』(86)の中で大いに活かしたと言われている。     


 シリーズ3作目でも、台詞の中でスタローンの名前がチラリと登場するのだけれど、我々はそういった箇所で、本作とスタローンの切ってもきれない歴史や関係性について思いを馳せるべきなのかもしれない。     


 ちなみに、『ビバリーヒルズ・コップ2』の悪役を担ったブリジット・ニールセンは『ロッキー4/炎の友情』(85)や『コブラ』でも広く知られ、なおかつ85年~87年にかけてスタローンの妻でもあった人だ。極めて変則的ではあるものの、本作内でも夫婦それぞれが強い印象を刻んでいるわけである。(そして当時、ニールセンとスコット監督が不倫関係に陥っていたらしいことも、一応、書き添えておきたい。)

     

 かくして、マーティン・ブレストからのバトンを受け継ぎつつ、決して先例に縛られずアクションぶっちぎりに解き放たれた本作。このバトンは7年後の『ビバリーヒルズ・コップ3』(94)では名匠ジョン・ランディスが引き継ぐことになる。


Netflix『ビバリーヒルズ・コップ: アクセル・フォーリー』予告


 結果的にこのシリーズは、エディ・マーフィを中心に回っている刑事ドラマでありながら、監督によって三者三様の、ノリと味わいが絶妙に異なる「競作」として仕上がっているところこそ、たまらない魅力なのではないだろうか。Netflix映画としてお目見えするシリーズ第4弾にも大いに期待したいものである。


参考資料:『ビバリーヒルズ・コップ1~3』DVD 収録映像



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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(c)Photofest / Getty Images

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