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『ハンガー』トニー・スコットがデビュー作で描いた芸術的なヴァンパイア・ストーリー

(c)Photofest / Getty Images

『ハンガー』トニー・スコットがデビュー作で描いた芸術的なヴァンパイア・ストーリー

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『ハンガー』あらすじ

舞台はニューヨーク。古代からヴァンパイアとして生きるミリアム(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、ここ数百年来、恋人ジョン(デヴィッド・ボウイ)と共に人間の生き血をすすり続けてきた。永遠の命、そして普遍の若さを手にしたはずだった二人。しかしある日、ジョンの体に急速な老化が起こったのをきっかけに、医師のサラ(スーザン・サランドン)をも巻き込み、彼らの関係性は大きな変容を遂げていくことに……。



 2012年8月19日、映画監督のトニー・スコットが亡くなった。


 あれからもう10年が経つなんて、歳月の過ぎゆく早さに驚かされるばかりだが、折に触れて作品を見直すたび、いまだに彼が死んだなんて信じられない気持ちになる。なぜなら、彼の映画には常に爆発的な生命力が満ち満ちているから。カメラは一瞬たりとも静止できないほど躍動し続け、はたまた主人公も絶体絶命の状況からなんとか逃れようと力の限り前に進み続ける。私自身、落ち込んだ時、壁に直面した時、彼の作品からどれほど巨大なパワーを注入してもらったかしれない。


 節目となる今年、待望の『トップガン マーヴェリック』(22)がついに公開された。劇場スクリーンに映し出された「トニー・スコットに捧ぐ」の文字にグッと感極まった人も多かったはず。


 彼は『トップガン』(86)でアクション映画史における、スピード感、動体視力の限界を更新させたと言っても過言ではない。トニー・スコットこそが最速。それはまさにハリウッドにおける一つの革命だった。だがこの一つ前の作品で、彼が映画界から干されんばかりの大きな挫折を経験していたのをあなたはご存知だろうか?


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豪華出演者で送るヴァンパイア・ストーリー



 その映画『ハンガー』(83)は、当時、兄リドリー・スコットの制作会社でCMやミュージック・ビデオを手掛けていたトニーが、初めて長編映画監督に挑戦した作品だ。ただし、後に彼の代名詞となる「銃撃戦」や「カーチェイス」などの要素は一切ないし、ましてや最先端マシンが高速で宙を滑空する気配もない。では何が刻まれていたかと言うと、まさかのゴシック・ヴァンパイア・ストーリーなのだ。


『ハンガー』予告


 舞台はニューヨーク(しかし予算の都合でその大部分はロンドンで撮影されている!)。古代からヴァンパイアとして生きるミリアム(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、ここ数百年来、恋人ジョン(デヴィッド・ボウイ)と共に人間の生き血をすすり続けてきた。永遠の命、そして普遍の若さを手にしたはずだった二人。しかしある日、ジョンの体に急速な老化が起こったのをきっかけに、医師のサラ(スーザン・サランドン)をも巻き込み、彼らの関係性は大きな変容を遂げていくことに……。


 当時のドヌーヴは貫禄たっぷりの「フランス映画の女王」といった存在感。対するボウイは本作の公開年にアルバム「Let's Dance」が大ヒットを記録し、なおかつ主演作『戦場のメリー・クリスマス』(83)も公開されるなど、スーパースターへの階段を駆け上がる真っ只中だった。1983年のニューヨークに古典的なヴァンパイアを降臨させるにあたり、どこか人間を超越したオーラを持つ二人の存在感が絶妙な説得力をもたらしたのは言うまでもない。


 そして、対する人間代表のスーザン・サランドンもまた、70年代の『ロッキー・ホラー・ショー』(75)でカルトな人気を集め、『アトランティック・シティ』(80)でアカデミー賞主演女優賞候補になるほど、評価を獲得していた。



『ハンガー』(c)Photofest / Getty Images


 映画界でまだ実績のないトニーが、デビュー作でこれほどの豪華布陣を獲得できたのは驚きだ。当時と言えば、兄リドリーをはじめ、『フラッシュ・ダンス』(83)のエイドリアン・ライン、『炎のランナー』(81)のヒュー・ハドソン、『フェーム』(80)のアラン・パーカーなど、CM界出身の映像作家たちが映画界に新風を吹き込ませ始めたまさにその時期。


 CMやミュージックビデオにおけるトニーの映像スタイルにいち早く目をつけたMGMのリチャード・シェファード(製作者)は、『フェーム』を大ヒットさせたアラン・パーカーなどにも相談した上で、この映画未経験の才能に思い切って企画を委ねる英断を下した。それは長期的に見ると実に正しい判断であり、またごく短期的な興行面に限定すると非常に悩ましいものとなってしまうわけだが……。



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