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『刑事ジョン・ブック 目撃者』映画が描いたアーミッシュ、その異世界への気づき

(c)Photofest / Getty Images

『刑事ジョン・ブック 目撃者』映画が描いたアーミッシュ、その異世界への気づき

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※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


 名匠ピーター・ウィアーのハリウッド進出作であり、ハリソン・フォードのキャリアを大きくステップアップさせた『刑事ジョン・ブック 目撃者』(85)は、大きくジャンルでくくれば刑事映画、犯罪映画ということになるだろう。


 たまたま殺人事件を目撃してしまった少年サミュエル(ルーカス・ハース)と、その母親レイチェル(ケリー・マクギリス)が犯人に命を狙われる。主人公の刑事ジョン・ブック(フォード)は母子を守ろうとするが、撃たれて重症を負い、レイチェルの農場に匿われる。夫を亡くしたばかりのレイチェルだったが、次第にジョンと惹かれ合うようになっていく――。


 と、軽くあらすじだけを紹介すると、「ベタな犯罪メロドラマだな」と思われても仕方がない。しかし本作は第58回アカデミー賞で8部門にノミネートされ、脚本賞と編集賞に輝いた。80年代の「ジャンル映画」としては稀少な快挙だったといえる。



 また本作を観て、ただの犯罪映画と捉える人はほとんどいない。最大の要因は、レイチェルとサミュエルの親子が「アーミッシュ」という宗教コミュニティに属している設定にある。なにせ上映時間の約7割は、アーミッシュの独特の文化や日常を映し出すことに注力されているのだ。通常のジャンル映画では考えられない時間配分である。


 では作品の核となっているアーミッシュとは、どのような価値観を持った人たちなのか? アーミッシュを知ることで、『刑事ジョン・ブック 目撃者』の特殊性の本質が見えてくるのではないか? そんな考察のためにこの原稿を書いてみる。


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出会うはずがなかった異文化の遭遇と衝突



 アーミッシュは17世紀末にスイスで生まれたキリスト教の一派で、他の宗派と相容れず、迫害を受けてその多くがアメリカに渡った。そして現代に至るまで、入植した当時とほとんど変わらない生活を守っていることで知られている。主に農業を営み、電気は引かない。自動車の運転は禁止で、主な交通手段は馬車。テレビや映画、ポップミュージックといった娯楽には触れず、結婚はアーミッシュ同志でしか許されない。


 また質素や慎ましさを美徳とし、服のボタンは華美なものであるとして使用しない。非アーミッシュである筆者には「ボタンが華美」と言われてもピンとこないが、長い伝統の中で生まれた数多くのしきたりを守り続けている人たちなのだ。一般社会とは極力交流を持たず(商取引など経済的な結びつきはある)、選挙にも参加しない。可能な限り自分たちのコミュニティの中で充足できる暮らしを続けているのである。


(c)Photofest / Getty Images


 『刑事ジョン・ブック 目撃者』の物語は、アーミッシュのコミュニティで生まれ育ったレイチェルが、事故で夫を亡くし、息子のサミュエルを連れてボルチモアの姉を訪ねようとするところから始まる。


 アーミッシュには、16歳になると一旦コミュニティの外に出て俗世で暮らすしきたりがあるので、おそらくレイチェルは外の社会についてある程度は知っていただろう。しかし幼いサミュエルには生まれて初めて別の世界を覗く旅で、好奇心が抑えられない。ところが村を離れて早々に、乗り継ぎのフィラデルフィア駅で殺人事件に遭遇してしまう。


 アーミッシュの教えを特徴づけているのが、「非暴力」と「赦し」という神の教えだ。危険な犯罪者と渡り合ってきたジョン・ブックには、アーミッシュの考え方は到底理解できないし、レイチェルにとっても、ジョン・ブックは粗野な不信心者でしかない。しかし否応なしに暴力に晒されたことで、彼らの価値観が衝突する。混じるはずのなかったふたつの世界の接近と遭遇が、本作の根幹にあるテーマなのだ。




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