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『シティ・オブ・ゴッド』容赦なき地獄の暴力映画は、なぜ不朽の名作になりえたか? ※注!ネタバレ含みます

(c)Photofest / Getty Images

『シティ・オブ・ゴッド』容赦なき地獄の暴力映画は、なぜ不朽の名作になりえたか? ※注!ネタバレ含みます

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絶望、諦め、わずかな希望……カタルシスなき完璧な結末



 かくして映画は、ファヴェーラに満ち溢れている暴力と犯罪と腐敗を、これでもかと描く。しかも、本作ではこういった問題が解決することはない。映画のクライマックス、写真家になった主人公のブスカベは、警察官とリトル・ゼが繋がっている決定的な証拠を写真に収める。しかし、彼はそれを使って腐敗を正そうとはしない。そしてラストシーン。写真家としてキャリアをスタートさせ、人生に希望を見出したブスカベ。その横を子どもたちが歩いていく。子どもたちは手に銃を持って、犯罪の計画で笑い合う。


 このシーンは、ソフトに収録されている監督たちの音声解説が強烈だ。「アメリカ映画ならこのあとブスカベは警察を告発し英雄になるだろう」と、ド直球の皮肉から始まり、ファヴェーラで暮らす人間のリアルな言葉を語る。「彼(ブスカベ)はただ相応の生活を手にしたいと望んでいるだけ。英雄になる必要はない。人並みの生活をして働く、それだけのこと」この突き放したスタンスが、本作のエンディングを強烈なものにしたのだ。ブスカベは真っ当な職に就き、ファヴェーラを出ることができた。しかし、そうでない者たちが圧倒的に多く、子どもたちはこれからも殺し合いを続けるのだ。本作はブラジルで公開された当初、一部の評論家に酷評もされたという。監督曰く「ブラジルの恥である部分を見せるなんて、許せない、という反応だったね」この酷評こそが本作がどれだけ真実に肉薄したかの証明だと言えるだろう。



『シティ・オブ・ゴッド』(c)Photofest / Getty Images


 ただし残念ながら、こうした暴力的なファヴェーラの現実は今も変わっていないようだ。リオにはファヴェーラを専門に取り締まるBOPEという特殊部隊がいて、Instagramの公式アカウントを持っている。そこには隊員が近隣住民と触れ合う画像にまざって、時おり押収品や逮捕者の姿もアップされているのだ。現在でもファヴェーラのギャングたちの重武装は変わっていない。この辺りの話について詳しく知りたい方には、同じくブラジル映画の傑作『エリート・スクワッド』(07)をオススメしたい。このBOPEもギャング以上に恐ろしい集団である(ちなみに同作の脚本には『シティ・オブ・ゴッド』の脚本を務めたブラウリオ・マントヴァーニも名を連ねている)。


 このように本作は極めてシリアスで、ブラックで、シニカルな映画だ。大人も子供も、とにかくたくさん人が死ぬし、ほんの少しの希望はあるが、圧倒的に絶望が大きい。しかし同時に、本作は不思議なほど爽やかで、エネルギッシュな映画でもある。それはひとえに、この映画の製作背景にあるだろう。




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