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『アモーレス・ペロス』イニャリトゥが亡き息子へ捧げた、喪失と再生の物語

『アモーレス・ペロス』イニャリトゥが亡き息子へ捧げた、喪失と再生の物語

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名匠イニャリトゥが放つ、魂を震わすほど圧倒的な人間ドラマ



 私事で恐縮だが、人生でたった一度だけ、映画人の“出待ち”をしたことがある。忘れもしない2000年の東京国際映画祭。そこで上映された一本の衝撃的な映画『アモーレス・ペロス』に目の眩むような衝撃を受け、私は上映と舞台挨拶が終わってもなかなか席を立つことができなかった。ようやく立ち上がれてもずっとその余韻を噛みしめていたくて、何の気なしに会場前にとどまり続けていた。


 そうこうしているうちに関係者口の扉が開いた。そこには先ほど壇上に立ったばかりの監督と主演俳優の姿。私は急いで追いかけ、精一杯の英語で自分の感想を情熱的に伝えた・・・のなら良かったが、実際は、間近で見るアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥがそれはもう圧倒的なオーラというか人間的迫力で、私は正直、ひるんでしまった。その隙に彼はあっという間に立ち去ってしまい、その光景をかわいそうに思ったのか、主演のエミリオ・エチェバリアだけは立ち止まって、映画の“殺し屋役”とは真逆の優しい笑顔で快く言葉を交わしてくれたのだった。



 恐らく私だけではないだろう。あの時、会場にいたどれほど多くの人たちが「この新人監督は、近い未来、とんでもなく化ける!」と興奮に打ち震えたことか。そして、確かにその通りになった。イニャリトゥが新作を発表するたびに注目度は高まり、ハリウッド俳優らが出演料を度外視して「出たい!」とラブコールを送るようになった。


 その果てに2014年に発表した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』ではアカデミー賞作品賞、監督賞を始め4部門を制覇。2015年の『レヴェナント:蘇えりし者』では作品賞こそ逃したものの、イニャリトゥが2年連続で監督賞を、主演レオナルド・ディカプリオが人生初の主演男優賞を手にしたことでも話題となった。



 だが、これらの受賞歴はあくまで結果に過ぎない。彼にとって一本たりとも、賞狙いの生やさしい作品などなかったはずだ。映画作りは生傷をこじ開け、己の全てをさらけ出す“魂の叫び”でもある。そのことはイニャリトゥが刻んだ一本一本を見れば痛いほど伝わってくる。繊細さや小手先の表現性ではどうにもならない。あの近寄りがたい人間的迫力を持った彼だからこそ、怒りや悲しみや絶望を全て超越し、これほどの圧倒的な人間ドラマを紡ぎあげることができたのだろう。



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