2024.07.02
創造神による神話の破壊
本作は、アメリカ映画協会からPG-13のレーティングを受けた最初の『スター・ウォーズ』映画でもある。確かにアナキンが溶岩によって燃え上がるシーンや、ジェダイ寺院で子供たちが虐殺されるシーンは、あまりにも凄惨。ジョージ・ルーカス自身も、『シスの復讐』の残虐性に自覚的だった。
「PG-13でも構わない。特に小さな子供たちには、これは普通の『スター・ウォーズ』ではないと警告するべきだと思う。もっとダークなんだ。もっと怖いものがたくさんある。ところどころ残酷な描写があるので、子供たちはそのことを認識すべきだろう。(中略)『スター・ウォーズ』は非常に純真だと思われているけど、多くの人が真っ二つにされたり、多くの腕が切り落とされたりしているんだ」(*2)
ルーク・スカイウォーカーとアナキン・スカイウォーカーの物語が繋ぎ合わされることによって、一つの叙事詩が完成し、完全な神話が完成する。だが父の物語は、かつての子の物語のように、決して陽性のファンタジーには成り得ない。
「父親の三部作では、子の三部作と同じトーンにすることはできなかった。子供というのは陽気でナイーブ。そして面白い。でも父親…特に間違った道を歩んでしまった父親には、もっと陰鬱な現実が待ち受けているんだ」(*3)
ジョージ・ルーカスという映画作家は、他の同世代のライバルたち…スティーヴン・スピルバーグ、フランシス・フォード・コッポラ、ブライアン・デ・パルマ、マーティン・スコセッシたちとは異なり、スタジオの雇われ監督になることを良しとせず、カリフォルニア州マリンカウンティに広がる大きな農場スカイウォーカーランチで、黙々と映画を作り続けてきた。『スター・ウォーズ』とは、ルーカス出資による巨大なインディーズ作品なのである。
莫大な富と自由を得た彼ならば、きっと『スター・ウォーズ』とは全く異なる作品にチャレンジすることもできただろう。子育てのためにおよそ15年間映画作りから離れ、改めて復帰する際には、「自分がやろうと思っていた前衛的な映画を撮るのか、それとも『スター・ウォーズ』を最後にもう一度撮るのか」(*4)について悩んだこともあったという。
だがルーカスは、再び神話の世界に舞い戻ってきた。もちろん過去の遺産をトレースする気は毛頭ない。『シスの復讐』の濃厚な悲劇性・残虐性は、「明るく楽しい『スター・ウォーズ』」というオフィシャル・イメージを創造神自らが破壊する、いかにもルーカスらしい反逆精神。いつだって彼は、反体制のシステムで、反体制の物語を紡いできた。「ファンの好みに左右されず、新しく革新的な作品を作る」というのが、ルーカスの信念なのではないか。既成の『スター・ウォーズ』神話を内側からブチ破ってしまった『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(17)を彼が高く評価したのは、ファンに迎合しないライアン・ジョンソン監督の作劇に畏敬の念を抱いたからだろう。
現時点で『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』は、ジョージ・ルーカスにとって最後の監督作品。2012年に総額40億5,000万ドルでルーカスフィルムをウォルト・ディズニー・カンパニーに売却したあとは、現場から離れて悠々自適の生活を送っている。ルーカスの『スター・ウォーズ』復帰を望む声は相変わらず大きいが、正直その可能性はかなり低いだろう。なぜなら彼は、自らの手で『スター・ウォーズ』神話を破壊してしまうはずだから。そんな芸当、ルーカスにしかできっこない。
(*1)(*2)(*3)
https://www.vanityfair.com/news/2005/02/star-wars-george-lucas-story
(*4)
http://www.phase9.tv/moviefeatures/starwars-episode3revengeofthesithinterview1.shtml
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
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