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『メイ・ディセンバー ゆれる真実』アイム・ノット・ゼア、消えていくイメージと真実
2024.07.22
Who was the boss?
『メイ・ディセンバー』は実際に起きた事件を元にしている。教師だったメアリー・ケイ・ルトーノーと当時13歳の生徒ヴィリ・フアラアウの間に起きた1996年の事件だ。メアリーは児童レイプの罪で懲役刑を受け、ヴィリとの子供を出産している。裁判で少年と会うことを禁止されたメアリーは、仮釈放中に少年と密会し、二人目の子供を妊娠する。2004年に仮出所したメアリーはヴィリと結婚、以後離婚に至るまで12年間の生活を送っている。メアリーは離婚後に亡くなっている。
二人が受けたインタビュー映像が残されている。インタビュアーがまだ子供だったヴィリの決断能力を問うと、メアリーはヴィリに向かって「Who was the boss?」という言葉を何度も何度も投げかける。ヴィリはあきらかに戸惑い、なかなか言葉が出てこない。グルーミングの要素を多分に感じさせる危険な記録なので、閲覧に注意が必要な映像だ。映画本編でジョーがグレイシーとの関係を改めて問いかける場面において、グレイシーはこのフレーズを挿んでいる。誰がボスだったの? 誰の入れ知恵なの?
『メイ・ディセンバー ゆれる真実』©2023. May December 2022 Investors LLC, ALL Rights Reserved.
子供たちが学校を卒業する=蝶のように外の世界に羽ばたくタイミングは、グレイシーとジョーにとって二人だけで向き合う時間が始まるタイミングでもある。それは悲劇の始まりなのかもしれないし、青春時代を過ごせなかったジョーの新たな人生の始まりなのかもしれない。ジョーは急速に大人になること、親になることを強制された人物だ。ジョーは人生をすり減らした傷ついた子犬のように見える。
ジュリアン・ムーアはグレイシーというキャラクターを小児性愛者ではなく、プリンセス症候群のように解釈している。若く強い騎士が自分のことを救いにきたというグレイシーの描く物語。このアンビバレンスな感情によって、二人の間にある権力が年下のジョーに譲られる。グレイシーの王子としてのジョー。もっともそれはグレイシーの心の中にだけあるものであり、王子とお姫様の関係を支配的にコントロールしているのもまたグレイシーだという、底なしの恐怖を本作は包み隠さず描いている。