アリー、映画の命運
ニック・カサヴェテスとライアン・ゴズリングは、アリー役のキャスティングが『きみに読む物語』という映画の命運を握っていることを予めよく知っていた。アリー役の最終オーディションには、レイチェル・マクアダムスと共にブリトニー・スピアーズが残っていたことが知られている(オーディション映像が残されている)。ブリトニー・スピアーズの出演が決まっていれば、ライアン・ゴズリングにとってキッズ向け番組の「ミッキーマウス・クラブ」以来の再会となっただろう。しかしレイチェル・マクアダムスのテスト演技がすべてをノックアウトする。残されたオーディション映像には、レイチェル・マクアダムスの爆発的な才能が刻まれている。ニック・カサヴェテスやライアン・ゴズリングでなくとも、おそらくこの映像を見る誰もが、自分の魂が震えるのを感じずにはいられないだろう。アリー役はレイチェル・マクアダムス以外にあり得ないのだ。
『きみに読む物語』(c)Photofest / Getty Images
『ミルドレッド 50歳からのスタートライン』(96)で長編映画デビューを飾ったニック・カサヴェテスの作家性を考える上でも、レイチェル・マクアダムスの起用は至極自然な選択だったように思える。実の母ジーナ・ローランズを撮ることから始まったニック・カサヴェテスのキャリアは、どうしたらいいのか分からないようなシチュエーションにおける俳優の“震え”を、フレームに収めることにこだわっているように思える。徹底して“俳優主義”なのだ。その意味で偉大なる映画作家である父親ジョン・カサヴェテスのエッセンスを、ニック・カサヴェテスのやり方で引き継いでいるともいえる。『こわれゆく女』(74)のジーナ・ローランズの演技が基調にあるといえばよいだろうか(子供時代のニック・カサヴェテスも出演している)。それは『ミルドレッド』のジーナ・ローランズとマリサ・トメイの“震え”に始まり、『シーズ・ソー・ラヴリー』(97)のロビン・ライトや『きみに読む物語』のレイチェル・マクアダムス、『私の中のあなた』(09)のキャメロン・ディアスへと引き継がれている。
そしてノア=ライアン・ゴズリングの存在。ニック・カサヴェテスは当初からライアン・ゴズリングを主演に本作を撮るつもりだったという。ジーナ・ローランズも賛辞を送ったように、ライアン・ゴズリングはこの世代最高の俳優だ。