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『こわれゆく女』人物の内面に入り込むカサヴェテス映画の強さ

(c)1974 Faces International Films,Inc.

『こわれゆく女』人物の内面に入り込むカサヴェテス映画の強さ

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『こわれゆく女』あらすじ

土木作業の現場監督ニックとその妻メイベル。ある日、突発的な事故でニックが帰宅できなくなったことをきっかけに、メイベルの奇行が目立ち始める。ニックはとうとう妻を精神科病院に入院させ、それから半年が経った。半年後、多くの友人や親族を招き、メイベルの退院を祝おうとしたが…。


Index


ジョン・カサヴェテス映画のスリル



 ジョン・カサヴェテス映画の楽しみとは何か? それは、人間の感情の流れに飲み込まれるスリルが体験できることではないだろうか?


 彼の代表作『フェイシズ』(68)や『こわれゆく女』(74)などがそうであるように、映画の中にいるのは、一見、そこいらにいそうな男と女だ。今にもこわれそうな関係もあれば、ゆっくり育っていく絆もある。ただ、予定調和的な物語が展開するのではなく、それが5分後、10分後にどんな方向に流れていくのか、まったく分からない。あるのは、その瞬間だけ。


 カサヴェテスは感情を切り取り、それを生の状態で観客に差し出す。そこにこざかしい加工はない。観客は、そのリアルさに一瞬たじろぐが、やがてはその生々しい激しさや優しさに飲み込まれてしまう。理屈を超え、体に直接響いてくるので、もう逃げようがない。そして、そこに飲み込まれた瞬間から、カサヴェテスの世界を漂い始める。その感情の流れがどこにいきつくのか分からないまま飲み込まれ、やがて無限のスリルを感じ始める。



『こわれゆく女』(c)1974 Faces International Films,Inc.


 彼の世界に飲み込まれるスリルを知ってしまうと、以前見たことがある映画も、また見たくなる。物語性ではなく、それぞれの瞬間に飲み込まれることにカタルシスを感じ始めるからだ。そこにカサヴェテス映画のスリルがある。そして、見終わった後もずうっと余韻が尾をひき、また、彼の世界に戻りたくなる。


 カサヴェテスの監督デビュー作『アメリカの影』が作られたのは59年で、晩年の代表作『ラヴ・ストリームス』は1984年に公開された。古い時代に作られた作品ばかりだが、不思議なことに古さを感じない。それは彼が、主人公たちを取り巻く外側の物語ではなく、主人公たちの内側に入る映画を作り上げているせいではないだろうか? 彼の映画の中心にいるのは人間で、彼は彼らの感情の流れを見つめようとする。たとえ時代が変わっても、人間の感情に古さや新しさはない。カサヴェテス映画は、だから普遍的な強さを獲得できている。




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