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『きみに読む物語』晩秋の空、間違えたかもしれない選択

(c)Photofest / Getty Images

『きみに読む物語』晩秋の空、間違えたかもしれない選択

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バスター・キートン、役作り



 観覧車にぶら下がるシーンを始め、若い頃のノア=ライアン・ゴズリングの体を張った演技は、その無表情さも相俟ってバスター・キートンを想起させる。ノアとアリーが映画館に行き、バスター・キートンの出演する『リル・アブナー』(40)を見るシーンがある。線路の向こう側にいる者との恋愛映画、そしてバスター・キートンという共通項から、『きみに読む物語』は、90年代にジョニー・デップが主演を務めた『妹の恋人』(93)とも、ほのかにつながっているように思える。


 ライアン・ゴズリングは材木置き場で働くノアの役作りのため、撮影の二か月前にチャールストンで生活を始め、川でボートを漕いだり、現地職人の指導の元、家具を作っていたという。映画本編にはライアン・ゴズリングの作ったアディロンダックチェアが使われている。アリーがノアの父親(サム・シェパード)に会うシーンが素晴らしい。父親の前で詩を読むノア(ライアン・ゴズリングの声はとても魅力的だ)。ノアがどのように育てられたかを、アリーは父親の行動、背中から知っていく。伝説の俳優・劇作家サム・シェパード。このカッコいい父親にしてこの息子あり。唐突に夜の10時にパンケーキを作り始める父親のことを、アリーはとても好ましく思っている。ここでは分け隔てなく人と接することができるアリーの人柄が伝わってくる。お互いの家への訪問は冷酷な対比として描かれる。アリーの家に招かれたノアは、あからさまな階級差別を受ける。しかしノアは材木置き場で働いていることを誇りに思っている。アリーと同じくノアにも階級的な差別・被差別の意識がまったくないことが分かる。



『きみに読む物語』(c)Photofest / Getty Images


 レイチェル・マクアダムスもまた撮影の数か月前からサウス・カロライナに滞在し、南部訛りを学んでいる。ライアン・ゴズリングとレイチェル・マクアダムスは役作りのプロセスを話し合うことなく、まったく別々に行動していたという。撮影中はかなり険悪なムードだったというが、二人には同じ病院で生まれたという運命のようなエピソードがある。ライアン・ゴズリングとレイチェル・マクアダムスは、撮影の数年後にプライベートで恋人同士の関係を築くことになる。


 本作の公開から20年。アルツハイマー病に罹る老後のアリーを演じたジーナ・ローランズは、実生活でこの病気と戦うことになってしまったことが、先日ニック・カサヴェテスによって明かされた。ニック・カサヴェテスは自身の作家性として、父親のジョン・カサヴェテスの爆発的な行動力よりも、母親のジーナ・ローランズの内省的な思考の影響が強いことを認めている。




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