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『96時間』円熟の名優と若き職人たちが作り上げた傑作アクション

(c)Photofest / Getty Images

『96時間』円熟の名優と若き職人たちが作り上げた傑作アクション

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『96時間』を作った人々のその後



 さて、ここからは『96時間』を作った者たちの、その後に触れておこう。リーアム・ニーソンはご存じの通り、本作が転機となってアクションスターの仲間入りを果たした(ギャラもこの映画以降2倍になったという)。2024年現在、遂に72歳を迎えたが、まだまだアクション映画の企画が控えている。


 一方、ヨーロッパ・コープの職人たちだが……、まず大きなところでいうと、ヨーロッパ・コープが経営的に行き詰った。この会社はベッソンありき、いわばベッソンのワンマン企業だ。アクション映画が当たると、ベッソンが撮りたい超大作企画を動かし、それが失敗して、またアクション映画を作る。そんな自転車操業めいたことをやっていたのだが、それも立ち行かなくなり、買収されることになった。今も会社は存続しているが、かつてほどの量産体制ではなくなっている。


 しかし『96時間』が作られた頃にヨーロッパ・コープにいた人々は、今も世界で職人として活躍中だ。一例をあげると『ワイルドスピード/ファイヤーブースト』(23)だろう。同作は監督の降板といった度重なる現場のトラブルで、撮影が延長されまくった。完全な炎上案件となり、もはや事態は収拾不可能と思われたが、そこにやってきたのがヨーロッパコープ出身の職人たちだ。誰もがサジを投げた状態に乗り込んできたルイ・ルテリエは、『トランスポーター』を手がけた監督で、自身のヨーロッパコープ仲間を現場にかき集めた。『ワイルドスピード/ファイヤーブースト』に出演したミシェル・ロドリゲスは、「ある日突然、監督、第2助監督、特殊効果、アクション担当もフランス人になった」と証言している(ちなみに格闘シーンの撮影のために『96時間』のアクション監督オリヴィエ・シュニーデルが既に別口から呼ばれていて、ルテリエ監督は現場での同窓会に喜んだという。実にいい話である)。そして公開された同作は大ヒットし、ルテリエ監督の続投も決まった。



『96時間』(c)Photofest / Getty Images


 『96時間』を監督したモレル監督もハリウッドを拠点に元気に活躍中だ。他にもアクション、サスペンス映画や、配信ドラマなどのスタッフを調べると、ちらほらとヨーロッパコープ組を見かける。みんなきちんと活躍しているようだ。手に職を持っているのはやはり強い。


 結局のところ『96時間』の魅力は、観客がこのジャンルに求めるものを完璧な形で出してくれた点だ。冴えない中年男性が実はとんでもない殺人マシーンで、その殺人スキルだけで巨大な犯罪組織をブッ潰す。この何十回も語られてきた物語を、完璧かつ当時の最新の形で語り直した。それが『96時間』なのだ。


 物を作るとき「まだ誰も見たことのないものを!」という姿勢は素晴らしい。しかし同じくらいに、「観客の『こういうのが見たい!』に完璧に応えてみせる!」姿勢も素晴らしいのである。『96時間』はそのことを我々に教えてくれる、確かな実力を持った人々が生み出した永遠に色あせない名作の一つだ。


参考文献:

96時間 [DVD]

・96時間 劇場版パンフレット

・GQ

How Taken Changed the Trajectory of Liam Neeson's Career

・THE Hollywood REPOTER

Michelle Rodriguez on Why ‘Fast X’ is “French ‘Fast & Furious'”



文:加藤よしき

本業のゲームのシナリオを中心に、映画から家の掃除まで、あれこれ書くライターです。リアルサウンド映画部やシネマトゥデイなどで執筆。時おり映画のパンフレットなどでも書きます。単著『読むと元気が出るスターの名言 ハリウッドスーパースター列伝 (星海社新書)』好評発売中。

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