現代にうまくアジャストした、明快な娯楽性
白石和彌といえば、容赦のないバイオレンス・アクションが持ち味。155分という上映時間のあいだ、激しい命のやり取りが繰り広げられる本作においても、その作家性は十二分に発揮されている。
かといって、工藤栄一監督が『十三人の刺客』や『十一人の侍』で実践したような、ハードなリアリズム描写に徹している訳ではない。むしろ現代にうまくアジャストした、明快な娯楽性を意識した作りになっている。爺っつぁん(本山力)と呼ばれる剣豪が官軍相手に大立ち回りを演じたり、巨漢の辻斬(小柳亮太)が大軍に囲まれても怪力で押し返す場面などは、そのエンターテインメト性がわかりやすく発揮された描写といえるだろう。
もうひとつ特徴的なのは、罪人たち個々のキャラクターを丁寧に描いていること。60年代の東映集団抗争時代劇は、全体の尺の問題もあって、彼らのバックボーンをみっちりと描きこむ余裕はなかった。主要な登場人物以外は、ただ死にゆくだけのモブキャラと化していたのだ。
『十一人の賊軍』©2024「十一人の賊軍」製作委員会
一方『十一人の賊軍』では、罪人という設定を上手に活かしている。イカサマで侍から金を騙し取っていた、赤丹(尾上右近)。子供を堕ろされた恨みで男の家に放火した、なつ(鞘師里保)。医学を学ぶためにおろしや(ロシア)への密航を図った、おろしや(岡山天音)。侍の妻と身分違いの恋をしてしまった、二枚目(一ノ瀬颯)。仏門に使える身でありながら多くの女性を手篭めにした、引導(千原せいじ)…。「どんな罪で捕まったのか」という何気ない会話が、そのままキャラクター紹介に繋がっている。
キャスティングも巧みだ。山田孝之、仲野太賀、阿部サダヲといった面々はコメディ映画でも実力を発揮する役者たち。そこに、千原せいじ、ナダル、ゆりやんレトリィバァなどのお笑い芸人たちが加わる。血生臭い残酷時代劇ではなく、手に汗握るアクション活劇に舵を切った作品だけに、彼らのポップな存在感は貴重だ。
ヒーローが壮絶に散っていく物語ではない。これはアンチ・ヒーローたちのサバイバル・ドラマであり、幕末のスーサイド・スクワッド。白石和彌はこの題材にありったけのエンタメ性を注入して、現代的な時代劇へと仕立てあげた。さらに、「正義も組織も信じられない」という極めて現代的なテーマをまぶせることで、『十一人の賊軍』はテン年代的な強度を勝ち得ている。
(*1)『十一人の賊軍』プレスシート
(*2)「昭和の劇 映画脚本家 笠原和夫」著:笠原和夫・荒井晴彦・絓秀実、太田出版
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
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『十一人の賊軍』
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配給:東映
©2024「十一人の賊軍」製作委員会