世の中には、”映画化”という日の目を見ることを待ち続けている脚本が存在する。本作『渇水』の脚本は、何と10年近く映画化を待ち続けたという。映画化に至るまでの長い期間、この脚本の存在は業界内で轟いており、「すごい脚本があるらしい」というその噂は白石和彌監督の耳にも届いていた。縁あってその脚本を読んだ白石監督は「これは世に出すべき作品だ」と、映画化へ向けプロデューサーとして動き出すこととなるーー。
本作の企画プロデューサーである白石和彌氏が、今回は何とインタビュアーとなって髙橋正弥監督への取材を実施。日の目を見なかった脚本がいかにして映画化されることになったのか、その紆余曲折はいかなるものだったのか、白石プロデューサーから高橋監督へ話をうかがった。
『渇水』あらすじ
日照り続きの夏、 市の水道局に勤める岩切俊作 (生田斗真)は、同僚の木田 (磯村勇斗)とともに来る日も来る日も水道料金が滞納する家庭を訪ね、水道を停めて回っていた。 妻 (尾野真千子)や子どもとの関係もうまくいかず渇いた日々。県内全域で給水制限が発令される中、岩切は二人きりで家に残された恵子 (山﨑七海) と久美子 (柚穂) の幼い姉妹と出会う。 父は蒸発、一人で姉妹を育てる母(門脇麦) も帰ってこない。困窮家庭にとって最後のライフラインである“水”を停めるのか否か。葛藤を抱えながらも岩切は規則に従い停水を執り行うが一。
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自分自身が“渇いていた”
白石:10年ほど前に原作(河林満 作「渇水」)を読まれてから、その後脚本作りをスタートされていますが、脚本家の及川章太郎さんとはまずどんな話をされたのですか?
髙橋:お互いこの原作が好きだったのですが、“お涙頂戴”にはならない構成にしようと。だからといってドライでもない。いい距離感を保ちつつ浪花節にはせずに作ろうとしました。
白石:それは、髙橋監督がお涙頂戴や浪花節が好きではないからですか?
髙橋:そうですね。観るのは好きですぐ泣いちゃうんですけど(笑)。自分で作るときはそういう風にならない方がいい。浪花節的な映画は好きなんです。だからあえて自分では作らないのだと思います。
『渇水』©2022「渇水」製作委員会
白石:確かに髙橋さんの作品は渇いた感じがありますよね。特に『渇水』は顕著です。
髙橋:かもしれないですね。たぶん自分がその時々で渇いているのだと思います。
白石:ご自身が“渇いている”というのは、何においてですか?
髙橋:映画づくりも人間関係も渇いていたと思います。昔からドライなイメージを持たれることがあるんです。人見知りというわけではないのですが、何度かお会いしても距離があるようで「いつも壁があるよね」と言われたこともあります。自分の距離の取り方がそうなっているのかなと。