1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ザ・バイクライダーズ
  4. 『ザ・バイクライダーズ』過ぎ去っていくアメリカへの追悼
『ザ・バイクライダーズ』過ぎ去っていくアメリカへの追悼

© 2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

『ザ・バイクライダーズ』過ぎ去っていくアメリカへの追悼

PAGES


カリスマという“鏡”



 『ザ・バイクライダーズ』の冒頭シーンは、バーのカウンターに一人佇むベニー(オースティン・バトラー)の背中にカメラを向けている。ベニーのジャケットの背中には”ヴァンダルズ“のロゴが刺繍されている。二人のならず者が余所者であるベニーに迫る。この界隈でそのジャケットを着ていることは許されない、いますぐジャケットを脱げと。クールなベニーが二人の顔を交互に睨みつける。ベニーは独特のカリスマ性によって場を支配している。オースティン・バトラーはベニーの孤独や色気、脆さや危険なミステリアス性をちょっとした視線の運び方や声の色で表現している。そしてベニーの体現しているものこそ、本作が追悼している“アメリカの風景”そのものといえる。


 ビリヤード台に手をつくベニーのカリスマ性に溢れたショットは、ダニー・ライオンの写真を模したものだ。クラブのボスであるジョニーをはじめ、ヴァンダルズは既婚者で家族のいる決して若くはないメンバーで構成されている。若いベニーは完全に異質な存在だ。長身のベニーの寡黙さや薄暗いダイナーにおける木漏れ日のような光の当たり方が彼のカリスマ性を増幅させている。キャシー(ジョディ・カマー)の視線は、ビリヤード台に手をつくベニーの孤高のカリスマ性に奪われる。キャシーはあっという間に支配される。不安と恐怖に恋をする。二人はマグネットのように引き付けられる。ジェフ・ニコルズはほとんど言葉を介さずに恋人たちの出会いを描いている。ここには特別なロマンスが始まるスピードがある。帰れない二人。キャシーが黙ってベニーのバイクの後ろに乗るシーンの素晴らしさ。



『ザ・バイクライダーズ』© 2024 Focus Features, LLC


 ベニーのカリスマ性はキャシーだけでなく、ジョニーを虜にしている。ジョニーは『乱暴者』のマーロン・ブランドのイメージをベニーに投影させているのかもしれない。二人の間には師弟愛を超えた特別な愛がある。しかしベニーはただ好きに生きていたいだけの人間である。近寄りがたく寡黙なベニーのことを周囲の人間が良い方向に解釈してくれる。カリスマ性とは周囲の人々やオーディエンスの投影によって生まれるものなのだろう。ベニーは人々の理想のイメージを投影された“鏡”なのである。勝手な投影であるがゆえ、キャシーとジョニーはベニーの行動をコントロールすることができない。誰のものでもないベニー。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ザ・バイクライダーズ
  4. 『ザ・バイクライダーズ』過ぎ去っていくアメリカへの追悼