2024.12.06
声の集積
「街角にバーがあり、中に入ると、それは60年前の私の写真にそっくりで、ただカラーだった。私は若かりし頃に戻ったような気持ちになった。」(ダニー・ライオン)(*1)
ダニー・ライオンの個人サイトには写真集「The Bikeriders」のキャシーやジョニーの声が録音データとしてアップされている(ベニーの声は残されていない)。ジョディ・カマーはキャシーの声の色、イントネーションやリズムを完全にコピーしている。ヴァンダルズのメンバーは自分たちの美学に対して明確な言葉を持っていない。キャシーによる回顧は、ヴァンダルズのメンバーの美学に言葉を与えている。それをテープレコーダーで録音するダニー・ライオン(マイク・フェイスト)。豪華キャストが集合した『ザ・バイクライダーズ』において、俳優たちの声が果たす役割は非常に大きい。特にジョディ・カマーとトム・ハーディの声の使い方。この映画は60年前の写真と同じように、人々の声を召喚している。声の集積としての映画。本作において俳優たちの声は、バイクのエンジン音と等価となる。
『ザ・バイクライダーズ』© 2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.
「50年代のこの場所の抜け殻が残っていたのです。空き店舗、空きビル。それらは美しくも幽霊の棲むような場所で、私が映画で表現したいことのすべてがそこにありました」(ジェフ・ニコルズ)(*2)
ジェフ・ニコルズは失われたアメリカの風景を撮り続けている映画作家だ。マシュー・マコノヒー主演の傑作『MUD -マッド-』(12)がマーク・トウェインのトム・ソーヤー的な想像力でアメリカ南部の河の風景を描いていたように、ジェフ・ニコルズはかつてあったアメリカの風景を幽霊化させる。同時に、ある時代のある場所に生まれ得ない生活様式や美学を描いている。それをジェフ・ニコルズはカルチャーと呼ぶ。この感覚が“ヴァンダルズ”というロゴの刺繍、布地に深く埋め込まれている。そしてバイクという名の“鉄の馬”。『イージー・ライダー』のバイクと馬が走るパレードシーンが象徴的に描いていたように、アメリカ映画にとってバイクとは、かつてカウボーイたちが乗っていた馬の“変奏”である。バイクという乗り物自体が“アメリカの幽霊”といえるだろう。