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『レッド・ロケット』21世紀のアメリカン・ニューシネマ

© 2021 RED ROCKET PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

『レッド・ロケット』21世紀のアメリカン・ニューシネマ

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『レッド・ロケット』あらすじ

「ポルノ界のアカデミー賞を5回逃した」ポルノ俳優だったが、今は落ちぶれ無一文で故郷テキサスへ舞い戻ったマイキー。別居中の妻レクシーと義母リルに嫌がられながらも彼女たちの家に転がり込むことに成功したが、17年のブランクのおかげで仕事はない。昔のツテでマリファナを売りながら糊口を凌いでいたある日、ドーナツ店で働く少女と出会い再起を夢見るが…。


Index


ポルノスターの凱旋



 放蕩息子の凱旋。華やかなロサンゼルスから故郷テキサスシティに帰ってきた元ポルノスター。率直かつ不愉快な人物。または底抜けに明るいクズ。速射砲のように繰り出される言葉によって周囲をうんざりさせてしまうマイキー・セイバー(サイモン・レックス)は、チャンネル登録数や受賞歴、2,000本のポルノに出演したことを自慢にしている。マイキーが故郷に帰ってきた理由が明らかにされることはないが、わずか22ドルの所持金で帰ってきたことに事情を察することができる。あらゆる虚勢がこの”アンチヒーロー”の心を支えている。マイキーはどこまでも有害で警戒されるべき人物だ。しかし持ち前の明るさが、彼を憎めない人物にしている。


 これまでの作品がそうだったように、ショーン・ベイカーは社会の周縁にいるキャラクターにスポットを当てる。私たちはマイキーのような人物にコインランドリーやコンビニエンスストアですれ違っている。深く付き合うことはないかもしれないが、絶対にどこかですれ違っている人物。ショーン・ベイカーの姿勢は一貫している。社会に対して何かしらの負い目や気まずさを感じながら生きている人物を描くこと。底抜けに明るいマイキーも、ポルノスターだったことにどこかで負い目を感じながら生きている。



『レッド・ロケット』© 2021 RED ROCKET PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.


 元ポルノ女優にして離婚が成立していない妻のレクシー(ブリー・エルロッド)を頼りに故郷に戻るマイキー。玄関先の”サプライズ”がレクシーに歓迎されることはない。唐突なマイキーの帰還に、レクシーと母親は「サイアク」と遠慮なく言い放つ。めげずにレクシーの家に転がり込もうとする厚顔無恥なマイキー。マイキーは敷地の外に追い払われていく。敷地外に出たマイキーと敷地内にいるレクシーによる言い争い。このたった数メートルしか離れていない二人のシーンに、本作の面白さが凝縮されている。レクシーはマイキーを敷地の外に追い出すことはできるが、彼を目に入れずにいることがもはやできないのだ。ショーン・ベイカーは、人々が目に入れたくないもの、目を背けているものに視線を注いでいる。そこには分断や差別の構造そのものが浮かび上がっている。





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