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『レッド・ロケット』21世紀のアメリカン・ニューシネマ

© 2021 RED ROCKET PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

『レッド・ロケット』21世紀のアメリカン・ニューシネマ

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どのように見られているか



 レクシーの家に転がり込むことに成功したマイキー。ショーン・ベイカーは、マイキーという人物がどのように見られているかをスケッチしていく。くだらない言葉を喚き散らすマイキーを無視するレクシー。そして定職を探すマイキーへ面接官たちは冷ややかな視線を注ぐ。長い長いブランク。ポルノスターへの職業差別。ユーモラスにテンポよく移り変わっていくこの一連のシーンで、マイキーの置かれた社会的な立ち位置が明確になっていく。いつも能天気に振る舞うマイキーだが、人々が自分にどのような視線を向けているのか、彼は十分に知っている。そして自分の属性によって次々に就労を拒否されていくマイキーの姿は、まったくもって他人事ではない。そもそもマイキーの有害な振る舞いの数々は、サバイブするために身に着けた彼の”技術”なのだろう。


 しかしそれでもマイキーは根本的に間違った人物だ。ショーン・ベイカーは、マイキーのユーモアや生き様に魅せられているが、マイキーのとる行動を正当化しようとしているわけではない。ショーン・ベイカーは、題材の扱いを間違えてしまえばキャリアを失いかねないようなリスクを背負っている。それはトランスジェンダーの生活を描いた『タンジェリン』(15)や、あの美しい前作『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(17)でも同じことだった。



『レッド・ロケット』© 2021 RED ROCKET PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.


 2016年の大統領選挙。レクシーの家のテレビではドナルド・トランプがスピーチする映像が流れている。新しいアメリカについてスピーチするトランプ。共和党の強力な地盤テキサス州。経済的に強いアメリカの夢を語る成功者トランプ。おそらく経済的な敗北によって故郷に戻ったマイキー。対照的な二人のイメージが、道化の技術という点ですれ違っていく。マイキーはハスラーのような身振りで自分の信奉者を手に入れる。軍人に憧れる隣人のロニーとドーナツショップのミューズ、ストロベリー(スザンナ・サン)だ。ロニーとストロベリーはマイキーのことを拒絶しなかった。マイキーの移動手段は自転車だが、二人との出会いによってマイキーは車という移動手段を手に入れる。マイキーは二人を手懐けているつもりだ。特にロニーに対しては自慢話が止まらない。疎外された小さなコミュニティの中でさえ、搾取の構造は生まれる。





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