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『ザ・バイクライダーズ』過ぎ去っていくアメリカへの追悼

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『ザ・バイクライダーズ』過ぎ去っていくアメリカへの追悼

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『ザ・バイクライダーズ』あらすじ

1965年・シカゴ。不良とは無縁の生活を送っていたキャシー(ジョディ・カマー)が、無口で喧嘩っ早いバイク乗りのベニー(オースティン・バトラー)と出会い、5週間で結婚を決める。地元の不良たちを仕切るジョニー(トム・ハーディ)の右腕という一面を持ちながら、群れを嫌い、狂気的な一面を持つベニーの存在は異彩を放っていた。バイカ―が集まるジョニーの一味は、やがてモーターサイクルクラブへと発展し、各所に支部が立ち上がるほど急激な拡大を遂げていく。その結果、クラブ内の治安は悪化し、敵対クラブとの抗争も勃発。暴力とバイクに明け暮れるベニーの危うさにキャシーが不安を覚えるなか、クラブで最悪の事態が起こる。


Index


どこかに消えたアメリカの風景



 『ザ・バイクライダーズ』(23)はダニー・ライオンの写真集「The Bikeriders」に登場する実在のアウトローたちにインスピレーションを得ている。この写真集には劇中でトム・ハーディが演じるジョニーのモデルとなった人物が残したスクラップブックが掲載されている。ジョニーのスクラップブックに貼られたバイカー映画の聖典『乱暴者』(53)の切り抜き(ポスター)。『乱暴者』のマーロン・ブランドが纏っているライダーズジャケットには背中に“B.R.M.C”(ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブ)のロゴが刺繍されている。いったい何に対する反抗なのかを問われたマーロン・ブランドは、不敵に答えをはぐらかす。『乱暴者』に描かれたバイク乗りの若者たちは騒々しい暴徒ではあるが、凶悪な犯罪者ではない。そこにはバイクに乗ることやスピードへの純粋な快楽がある。クラブを作って独特の美学を持つことが、そのまま社会への反抗となっている。『ザ・バイクライダーズ』のジョニーが“ヴァンダルズ”(破壊者)を結成するきっかけは、テレビで見た『乱暴者』のマーロン・ブランドへの憧れからだった。


 ジェフ・ニコルズ監督の『ザ・バイクライダーズ』は、『乱暴者』に始まり、『スコピオ・ライジング』(63)を経由して『イージー・ライダー』(69)が終わらせた、特定の時代、特定の場所に華開いたある美学を描いている。



『ザ・バイクライダーズ』© 2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.


 ケネス・アンガー監督が描いた30分に満たないサイケデリックな傑作『スコピオ・ライジング』。この作品の主人公の部屋のテレビには『乱暴者』のマーロン・ブランドの映像が流れていた。『スコピオ・ライジング』は、オールディーズの甘美なポップミュージックにのせてバイカーのファッション、美学をフェティッシュに描くと同時に、バイカー・クラブのロゴをナチスのイメージと結びつけることで、当時のバイカー文化への警鐘を鳴らしていた。シャングリラスの音楽が使用されている『ザ・バイクライダーズ』のイメージは、『スコピオ・ライジング』を踏襲したものといえる。


 そして『イージー・ライダー』が公開された1969年にオルタモントの悲劇が起こる。ローリング・ストーンズのフリーライブの警備を任されたヘルズ・エンジェルスのメンバーが観客を殺害した事件。『乱暴者』の比較的おおらかだった時代と違い、バイカー文化に対する世間のイメージは凶悪な犯罪と強く結びついていた。旧来のバイク文化の死。新世代の登場である。『ザ・バイクライダーズ』は、『乱暴者』と『イージー・ライダー』の間にあるバイカー美学の変遷、消えていったアメリカの風景を描いている。




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