2024.12.06
風景が泣いている
ジョニーが仲間同士で作ったヴァンダルズは規模を広げていく。アメリカ各地に支部が生まれ、新しい世代が参入してくる。手に負えない権力を持ったジョニーは、かつての美学を失っていく。純粋さの喪失。焚き火を囲んで仲間とビールを飲んでいた時代はあっという間に過ぎ去り、ドラッグと犯罪の時代が始まろうとしている。拳とナイフによる決闘は銃に取って代わられる。ヴァンダルズの上層部が既にバイクではなく車で移動しているのが象徴的だ。既に時代は変わってしまった。それは少年的な無邪気さが、誤った男性らしさのイメージへと変っていく時代の変遷ともいえる。
ジョニーは自分が手にした権力に怯える。二度と後戻りができないことを知る。ジョニーがベニーにクラブの跡継ぎを任せようと説得するシーンにはマフィア映画のような趣がある。しかしベニーだけは変わらずに少年性を保ち続ける。ベニーにとってバイクは自分の体の一部なのだ。『ザ・バイクライダーズ』において、ベニーこそが純粋さの象徴、かつてあった“アメリカの風景”そのものとしてあり続けている。
『ザ・バイクライダーズ』© 2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.
アメリカはどこにある?かつて『イージー・ライダー』はロードムービーを通して、自分たちの“アメリカ”がどこにあるのか探していた。“アメリカ”という言葉を“故郷”と言い換えることもできるだろう。『イージー・ライダー』のピーター・フォンダとデニス・ホッパーが“故郷”に帰れなかったように、『ザ・バイクライダーズ』は自分たちの“故郷=アメリカ”を失っていく。一度も泣いたことがないベニーが涙を流す。それはアメリカという風景が流す初めての涙となる。ジェフ・ニコルズはこの風景を追悼している。繰り返し見るに値する味わい深い“アメリカ映画”の傑作の誕生だ。
(*1)Aperture [Danny Lyon on the Making of “The Bikeriders”]
(*2)Roger Ebert.com[Beautiful and Haunted: Jeff Nichols on The Bikeriders]
映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。
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『ザ・バイクライダーズ』
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配給:パルコ ユニバーサル映画
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