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『オーシャンズ8』ソダーバーグから受け継いだ、ゲイリー・ロスの『オーシャンズ』シリーズへのリスペクト

『オーシャンズ8』ソダーバーグから受け継いだ、ゲイリー・ロスの『オーシャンズ』シリーズへのリスペクト


第一級の映画監督が、他人のスタイルを完コピ?



 さて、『オーシャンズ8』で興味深いのは、監督がゲイリー・ロスに交代したにも関わらず、ソダーバーグと旧三部作のキャスト陣が作り出したスタイルを可能な限り踏襲していること。もちろんただのコピーではない。独自の持ち味やアレンジを加えつつも、作家性を前面に押し出さず、「オーシャンズ」シリーズが構築したスタイルを教科書や経典でもあるかのように守っているのである。当然ながら前述のスプリット・スクリーンも効果的に使われていて、シリーズのイメージを補強してくれている。



 旧三部作が同じスタイルを保ち続けられたことは、特別なことではない。ソダーバーグは監督だけでなく撮影監督を兼ねていて、「オーシャンズ」の三部作でも自らカメラを回している。また11人のレギュラー陣は一度も欠けることはなく、作品の雰囲気を決定づけた音楽は三作を通じてデヴィッド・ホルムスが手がけている。シリーズ全体のトーンを統一するにはまさに盤石の体制だったのだ。


 ゲイリー・ロスは『オーシャンズ8』を作るにあたって、新たな撮影監督(アイジル・ブリルド)と音楽担当(ダニエル・ペンバートン)を迎えているし、そもそもロス自身が長いキャリアのあるベテラン監督だ。シリーズに敬意は表しても、もっともっと自分の色を打ち出すことはできたはずなのだ。しかし『オーシャンズ8』が敢えてシリーズが持っていた空気感やコンセプトを遵守している様は、原曲のメロディーラインを変えないカバーソングのようでもある。


 面白いのは、ロスの『オーシャンズ8』によって「オーシャンズ」シリーズがもはや一つの強固なジャンルであることが証明されたことだ。ソダーバーグが世間から忘れ去られた映画ジャンルや表現に執着するように、ロスもまた「オーシャンズ」シリーズという“表現”を11年ぶりにスクリーンに蘇らせているのである。しかもこの企画をソダーバーグに持ち込んだのはロス自身であり、ロスは好き好んで自分の色を打ち消すように演出しているのだ。もともとロスは作家主義を強く打ち出す監督ではないが、「個性」を押し出すばかりが映画監督の仕事ではないと、改めて教えてくれる作品である。


 最後に、ロスとソダーバーグの交友について触れておきたい。ソダーバーグはロスの初監督作『カラー・オブ・ハート』(1998)をプロデュースするなど、古くからの友人同士だ。そしてロスがアクション大作『ハンガー・ゲーム』(2012)を監督した際に、ソダーバーグが助っ人を務めたことがある。大規模な暴動のシーンの撮影で、第二班監督をやって欲しいとロスから頼まれたのだ。



 ソダーバーグは一日だけ撮影現場に参加して、主に群集シーンを撮っている。もちろんソダーバーグ流に自分でカメラを担いで撮った。この時にソダーバーグは、すでに撮影されていた映像を事前に見せてもらい、ゲイリー・ロスと撮影監督のトム・スターンのスタイルを完全に真似してみせたという。ソダーバーグのようなビッグネームが別の監督の作品に参加すること自体がニュースだが、ソダーバーグは「どのシーンを自分が撮ったのか絶対にわからない」境地を目指した。言わばロスの影武者としての役割を全うしたのである。


 『オーシャンズ8』を観ていて、このエピソードを何度も思い出した。第一級の映画監督たちが、お互いに敬意を抱き、相手のスタイルを使って映画を撮る。そこに残るのは、もはや作家のエゴではなく、ただ本質的な作品のあるべき姿なのではないか。脈々と受け継がれる伝統芸として、「オーシャンズ」シリーズにはまだまだ続いていって欲しいと心から願っている。



文:村山章

1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。



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『オーシャンズ8』

8月10日(金) 全国公開

ワーナー・ブラザース映画

(C) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS NORTH AMERICA INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

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