アポロ計画陰謀論の原点
以前、会話していた相手が、アポロの月面着陸を全く信用していないことが分かって面食らったことがある。「そんな凄いことが出来たのなら、何故その後50年近く月に行っていないのか?」という例のよくある主張で、あれはスタジオに作られた月面セットで撮影されたものだと言う。最初はジョークで言っているのかと思っていたから、真剣に信じていると分かると、こっちが慌てた。20代前半の人だったが、2000年代に入ってから日本で、フランスのTV局が製作したフェイク・ドキュメンタリー『Operation Lune』(02)をスキャンダラスに取り上げてアポロ陰謀論を繰り広げていたのを子供の頃に見たせいなのか、ネットに書かれていることを鵜呑みにしたのかは定かではないが、彼に『カプリコン・1』を観せたら、どんな反応を見せただろうか。
とはいえ、当時のアポロ中継でも、紛らわしい出来事が幾つかあった。例えば二度目の有人月面着陸を実現させた1969年のアポロ12号では、カラーのTV中継が目玉になっていたが、月面でカメラをセッティングする際に太陽光をレンズに直接向けてしまい、画像処理プロセッサが故障してしまった。
『カプリコン・1』(C)Capricorn One Associates 1978
慌てたのは、中継中のテレビ局である。直ちに映像が差し替えられ、「CBSニュースは、宇宙服を着たふたりの男性がロングアイランド州ベスページの月着陸船スタジオで、予定された船外活動をおこなっている再現映像を流した。NBCの代替番組は、もっと型破りだった。有名な操り人形師のビル・ベアードとその助手に頼んで、数カ月前にグレニッチビレッジにあるベアードの仕事場兼劇場用に彼らが作った人形で、船外活動の様子を再現してもらった」(『月をマーケティングする アポロ計画と史上最大の広報作戦』(デイヴィッド ミーアマン スコット、リチャード ジュレック著/日経BP社)というのだが、少なくない視聴者が、それを再現映像とは気づかなかったという。月面の中継で後方に照明が見えたとか、ワイヤーで吊っているのが見えたとか、スタッフの姿が見えたという都市伝説は、この辺りが原点ではないかと思うのだが。