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『満ち足りた家族』豪華キャストが食卓を囲み紡ぎあげる、現代家族の呪縛と崩壊
西欧小説を韓国流へ巧みに翻案
本作はオランダ人作家ヘルマン・コッホによる世界的ベストセラー「Het Diner」(英題"The Dinner"、邦題「冷たい晩餐」)を原作としている。
ホ・ジノと脚本家のパク・ウンギョ(『母なる証明』/09)は、このヨーロッパ的な題材を現代韓国社会をめぐる物語へ驚くほど巧みに翻案してみせた。その細部まで配慮された緻密さと、まるで舞台劇を見ているかのような脚本構成には舌を巻く。
兄弟の確執、生き方や理念の違い、親の介護、子供との距離感、格差社会、エリート主義、受験問題など、ごく一般的な家族が経験するようなリアルな問題の数々が卓上の高級料理のごとくぎっしり並べられる。その結果、いつしか浮かび上がってくるティーンエイジャーの子供らの”とある容疑”をめぐって、親たちは自分たちがどう対処すべきかを激しく自問することになる。
『満ち足りた家族』©2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED
かくも本作は『八月のクリスマス』とは真逆のテイストを持ったヒリヒリするほどのサスペンスドラマなのだが、プロットを小手先だけで転がすのではなく、しっかりと個々の内面に焦点を当て、的確な人間描写に基づいてストーリー展開させていく。いかにもホ・ジノらしいところだ。
そこに2000年代の韓国映画界を牽引してきたカリスマたちの演技が冴え渡る。几帳面で冷静沈着な面持ちを見せるソル・ギョングと、熱さと人間味を帯びたチャン・ドンゴン。些細な表情やしぐさの中に複雑な感情をほとばしらせる彼らは、喜怒哀楽の表現にしても、言葉で表現しようのない陰影を添えることで常にいびつな奥行きを出す。
個々の存在感がインパクトを放ちつつも、決してストーリーの邪魔はしない。その辺のさじ加減もお手の物。アンサンブルの魅力が際立てば際立つほど、筋書きはジェットコースター的に速度を増し、彼らを待ち受ける運命も時限爆弾のように周到に炸裂する。そうやってふと気がつくと、四人が座っていたディナーの席は、彼らが気づかぬうちに不思議なほどナチュラルに立場が逆転し入れ替わっている。この鮮やかなタッチはまるで手品を見ているかのようだ。