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『満ち足りた家族』豪華キャストが食卓を囲み紡ぎあげる、現代家族の呪縛と崩壊

©2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED

『満ち足りた家族』豪華キャストが食卓を囲み紡ぎあげる、現代家族の呪縛と崩壊

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家族であることや血のつながりがもたらすもの



 ラストを目撃して改めて驚嘆するのは、どの細部も無駄にすることなく伏線回収しながら、まるで幾何学模様のごとく全体像が緻密に練り上げられているということ。そして、第三者に関してはごく冷静沈着な価値判断と人生哲学を貫けていた主人公らが、いざ家族や血のつながりが関わると、途端に思考バランスを崩して動揺し始める様が人間観察として実に面白い。


 今思うと、冒頭の暴走事件は最初の大前提として必要不可欠なパートだったことがわかる。赤の他人が引き起こした事件をまずは客観的に見つめ、そこからこれが家族ならどういう事象が起こるのか、はたまた、血の繋がりの有無によって守るべきもの、貫くべき理念は変わるのかと、少しずつ価値判断にグラデーションがつけられていく。その構成もスリリングで、果たしてどんな結論が導き出されるのか興味が絶えない。



『満ち足りた家族』©2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED


 また、主人公の兄弟(ソル・ギョング&チャン・ドンゴン)は子供らの成長に責任を持つべき親であるのと同時に、認知症を患って介護を必要とする高齢の母の子供たちでもあるという、この親子をめぐる二重構造も作品に深みを与えている。


 一方、家族内で最も介護に時間を割いているヨンギョン(弟ジェギュの妻)がこの義母と”血が繋がっていない”というのも重要な点で、これは同様に、ジス(兄ジェワンの2人目の妻)にとって、ティーンエイジャーの娘と何ら血の繋がりがないというポイントとも重なってくる。血の繋がりとはまた違った客観的な視点がそこには立ち現れ、夫たちとは異なる物の見方がストーリーをツイストさせているというべきか。


 そして最終的には全てが今一度、主人公兄弟の生き方や人生哲学へと帰結していくのだが、この結末は最初から固く運命付けられていたかのようでもあり、思わず「お見事!」と称賛したくなるほどのうまさと、そこに充満するなんとも皮肉な重苦しさとを同居させた仕上がりとなっている。


 決して派手さはないが、家族という小さな社会をめぐる硬派な作りがなんとも不気味に黒光りする、まるで鋭利な刃物のごとき現代の神話。ストーリーテラーとしてのホ・ジノの真骨頂を垣間見た思いがした。



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。




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『満ち足りた家族』

全国上映中

配給:日活/KDDI

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