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『満ち足りた家族』豪華キャストが食卓を囲み紡ぎあげる、現代家族の呪縛と崩壊
『満ち足りた家族』あらすじ
兄ジェワン(ソル・ギョング)は、道徳よりも物質的な利益を優先して生きてきた弁護士だ。仕事のためなら、殺人犯の弁護でさえも厭わない。年下の2人目の妻ジス(クローディア・キム)や10代の娘らと共に豪華マンションに住み、家事は家政婦がこなす誰もがうらやむ暮らしだ。一方、小児科医として働くジェギュ(チャン・ドンゴン)は、どんな時にも道徳的で良心的であることを信念に生きてきた。年長の妻ヨンギョン(キム・ヒエ)と10代の息子と共に住む彼は、老いて認知症気味になった母の介護にも献身的に当たり、品行方正な日々を送る。まったく相容れない信念に基づいて生きてきた兄弟。しかし2人は、それぞれの妻を伴って月に1回、高級レストランの個室に集い、ディナーを共にする。レストランではお得意様であるジェワン夫妻が常に優先され、兄弟家族同士の会話はどこかぎこちない。ディナーが行われた夜、時を同じくある事件が起こり、満ち足りた日々を送る家族が想像だにしなかった衝撃の結末を招き寄せる―。
Index
『八月のクリスマス』の名匠が手がける衝撃作
韓国で『シュリ』が社会現象と呼ばれるほどの大ヒットを記録したのが1999年。その前年には、同じハン・ソッキュ主演の『八月のクリスマス』(98)が公開され、写真館を営む主人公と若きヒロインのしみじみとした恋物語が観客の涙を誘った。
韓国映画ニューウェーヴの先駆者ともいうべき『八月のクリスマス』の誕生から約四半世紀が過ぎ、この映画で長編デビューを果たしたホ・ジノ監督も今では60歳を超えた。最近では初のドラマシリーズを手掛けたことも話題になった名匠が、鋭い視点と語り口で現代社会に投げかけるヒューマンサスペンス、それが最新作『満ち足りた家族』(24)である。
『満ち足りた家族』©2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED
筆者の正直な気持ちを明かすなら、期待もありつつ、不安もあった。心に染み入る初期作の印象が強いあまり、頭のどこかで「彼に先鋭的なものなど作れない」という勝手な先入観が働いていたせいかもしれない。だがその思いは、衝撃的な冒頭シークエンスの段階で思い切り打ち砕かれることに。
突きつけられるのは、大企業グループの御曹司が高級車で起こした暴走殺人だ。このプロローグを生々しい映像の連続で一息に映し出したかと思うと、次の瞬間、物語の本格的な開幕とともに、これとは全く別の「家族の物語」へと切り変わっていく。