2025.02.20
映画の舞台には最高の博物館
ニューヨークのマンハッタン、アッパーウエストサイドの77丁目から81丁目に位置する自然史博物館は、アメリカおよび世界全般の自然史を紹介する巨大な施設で、ニューヨーク観光の目玉のひとつ。映画の舞台にもふさわしく、『ナイト ミュージアム』以外にも登場する。
ノア・バームバック監督の『イカとクジラ』(05)では、ジェシー・アイゼンバーグが演じる16歳のウォルトが、自然史博物館でダイオウイカとマッコクジラの格闘を再現した展示を見に行く。子供時代にトラウマになった思い出と、もう一度向き合うためだ。またトッド・ヘインズ監督の『ワンダーストラック』(17)は、1977年と1927年の2つの時間でのドラマが交錯するのだが、両方の主人公が向かうのが自然史博物館。1977年のパートでは夜間の博物館が描かれるので『ナイト ミュージアム』と重なる。タイトルの「ワンダーストラック」は自然史博物館が発行した小冊子のこと。さらに遡れば、チェコスロバキアのカレル・ゼマン監督『前世紀体験』(55)は少年たちが古代にトリップする冒険ファンタジーで、その冒険が自然史博物館のベンチのシーンで終わる。ジーン・ケリーとフランク・シナトラという2大ミュージカルスターが共演した『踊る大紐育』(49)では、主人公たちが自然史博物館へ向かい、恐竜の骨格模型を壊してしまう。
『踊る大紐育』の博物館シーンは明らかにセットなのだが、『ナイト ミュージアム』でも実際の博物館は外観のみの撮影。カナダのバンクーバーに、博物館内部をそっくり模したセットが作られ、そこでメインの撮影が行われた。続編の『ナイト ミュージアム2』(09)はスミソニアン博物館、3作目の『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』(14)では大英博物館へと舞台が変わる。博物館とエンタメ映画の相性の良さを何度も実感させてくれたのが、このシリーズだ。
『ナイト ミュージアム』(c)Photofest / Getty Images
もともと主演に想定されていたのは、エディ・マーフィーだったという。しかしスケジュールの関係で実現せず、主人公のラリー役はベン・スティラーにバトンタッチされた。ショーン・レヴィは自身が監督に決まると、その2週間後にスティラーに脚本を送り、ニューヨークでランチをして彼に主役を打診した。スティラーは子供時代、自然史博物館から5ブロックの場所に自宅があり、先住民族(ネイティブ・アメリカン)の歴史や巨大なクジラの展示が大好きだったことで、出演を快諾。レヴィからスティラーへの信頼は絶大で、ラリーと博物館館長のマクフィー博士がミニチュアの展示を前に戦闘の話をするシーンは脚本もすべて空白。すべてスティラーとマクフィー役リッキー・ジャーヴェイスのアドリブに託され、4時間かけて完成された。
アドリブで有名なのはロビン・ウィリアムズだが、本作で演じた展示物のルーズベルト大統領は実在の人物なので、ふだんのコメディ作品ほどウィリアムズのアドリブは発揮されていないと、レヴィ監督は語っていた。そのレヴィ本人も、ラリーが恐竜のT-Rexに襲われるシーンでは、CGIで描かれるT-Rexの動きを、撮影時に彼自身が演じたりと、つねに楽しそうな現場の雰囲気が想像できる。展示物の若きエジプト国王アクメンラー(モデルはツタンカーメン)役のラミ・マレックは、これが映画デビュー作。エジプト系なので適役だが、まさかその後、『 ボヘミアン・ラプソディ』(18)のフレディ・マーキュリー役を演じ、オスカーを獲るなんていったい誰が想像しただろう。