2025.02.20
『ナイト ミュージアム』あらすじ
ラリーは失業中の冴えない中年男性。離婚した妻と暮らしている息子から仕事を探すよう諭され、自然史博物館の夜警の仕事を始めた。初出勤の夜、見回りの途中にラリーは怪しい物音に気づく。なんと、ティラノサウルスの骨格標本が博物館内を動き回っていた。この博物館では夜になると展示物が動き出すのだ。乱痴気騒ぎを起こす展示物たちのせいで朝には館内は散らかり、ラリーは毎日のように所長に叱られてしまう。しかしラリーは展示物のルーズベルトの助けを借りることで、展示物たちと心を通わせていく。
Index
日本では当たりづらい予想を軽々と覆す
2007年の日本の映画興行で、思わぬヒットを記録した作品がある。『ナイト ミュージアム』だ。いま改めて振り返れば、その設定の面白さから人気が出たのは納得だし、実際に先行して公開されたアメリカなど各国の数字をまとめた世界興収では、2006年の5位にランクされていたので、驚くことではないかもしれない(日本は翌2007年の3月公開)。しかし当初、『ナイト ミュージアム』の日本での興行には不安の声もささやかれていた。主演がベン・スティラー。それまでも『メリーに首ったけ』(98)、『 ミート・ザ・ペアレンツ』(00)、『ズーランダー』(01)、『ドッジボール』(04)などの主演作が、北米では大ヒットしたにもかかわらず、日本での成績は『メリー〜』がそこそこ行っただけで(配収5億円)、基本的に低調。ハリウッド製のコメディがなかなか当たらないという日本での実情を、ベン・スティラー主演作が証明していた。
配給の20世紀フォックスは、2007年の正月映画『エラゴン』(06)に宣伝費15億円を投入。直前に成功を収めていた「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのファンタジー路線を踏襲し、同作の日本でのヒットを狙うも、興収18.6億円にとどまるという明らかな失敗で終えていた。同じ過ちを繰り返すわけにはいかない同社は、3月公開の『ナイト ミュージアム』では、作品の楽しさを前面に押し出したTVスポットを大量に投入して、若い世代やファミリー向けにアピールすることに成功した。結果的に興収は35億6,800万円に到達。ベン・スティラー主演作で、コメディ色も強いエンタメ作品でのこの数字は、日本のフォックスにとっても、その後の宣伝戦略のひとつの指針を作るきっかけとなった。
『ナイト ミュージアム』予告
多くの人に興味を喚起させたのは、作品のシンプルな設定だろう。「博物館の展示物が夜になると動き出す」という、誰もが妄想&空想しやすいネタを、エンタメとしてここまでガッツリ使用した映画は、それまでありそうでなかった。『ナイト ミュージアム』には原作が存在する。1993年に出版された同名(「The Night at the Museum」)の絵本だ。原作の舞台が、ニューヨークのアメリカ自然史博物館。これほど最高な場所はない。恐竜の骨格、動物の剥製、偉人の像、人間のミニチュアモデルなど「動いたら面白そう」という展示物の宝庫だからだ。
ただし絵本は表紙を含めてわずか32ページ。それを20世紀フォックスは10年かけて脚本をディベロップしていった。博物館の警備員と動き出す展示物というシンプルな関係を基本に、主人公の警備員ラリーの家族ドラマ、他の職員との関係なども絡めて、ハリウッドの王道エンタメらしいストーリーが完成された。ヒットを狙える条件が整ったわけだ。