シングルマザーと記憶の消えゆく男
ブルックリンのアパートで娘と共に暮らすシルヴィア(ジェシカ・チャステイン)は介護施設に勤務するソーシャルワーカーだ。手際よく仕事をこなし、人当たりも悪くはない。けれど表情にはいつもどこか思い詰めたような影が差している。
誰かを介助することを生業としながら、実は彼女自身もまた、心の内側に一人ではどうしようもない傷を抱えた女性でもあった。そんなシルヴィアの身に一つの出来事が起こる。気乗りせずに参加した同窓会の帰り道、ソールという名の男がずっと跡をつけてきたのだ。
『あの歌を憶えている』© DONDE QUEMA EL SOL S.A.P.I. DE C.V. 2023
最初は身の危険を感じたものの、一晩明けて、アパートの前で雨に濡れながら横たわる彼を見て考えが変わる。手慣れた所作で彼をケアするシルヴィア。どうやら彼は若年性の認知症を患っているらしく、何もわからないまま、導かれるように彼女についてきてしまったようなのだ。
こうして舞い込んだ予期せぬ出会い。やがてソールの親族に依頼され、パートタイムで彼のケアを担うようになる中で、二人の関係は次第に安らぎと温もりに満ちたものへと育っていき…。