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『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』ディランの若き日を正攻法でとらえた力作 ※注!ネタバレ含みます
2025.02.28
ドラマの基盤となった、フォークの偉大な先人ふたりとの関係性
このドラマの大きな柱となっているのは、恩人であるフォーク界の先人ピート・シーガーや、憧れの存在であるウディ・ガスリーとのつながりだ。映画の冒頭で、無名時代のディランはガスリーに自分の歌を聴かせたい一心で、彼が入院している病院に押しかける。言葉も話せないほど衰弱しているガスリーも、その世話をするために度々病院に来ていた親友のシーガーも、病室でギターを弾きながら歌い始めた彼の才能を見抜く。ドラマの起点は、まさにここだ。ディランは有名になってからも、この病室を訪れ、返事のできないガスリーに苦悩を打ち明ける。
一方のシーガーは若いディランを度々サポートして成功へと導く。しかし、この関係性は変化を余儀なくされる。シーガーは生粋のフォークシンガーだが、ディランはフォークの枠に収まらないアーティストだった。アーティストは変化を恐れず、前に進む。彼らの間の距離が次第に広がっていくのは、1964年と1965年、シーガーが主催のひとりに名を連ねたニューポート・フォーク・フェスティバルにディランが出演したシーンを見比べればよくわかる。1964年のディランは大ヒット曲「時代は変わる」をギター一本で熱唱し、その日の主役となった。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
しかし、翌年のニューポート・フォーク・フェスティバルに大トリとして出演した際、もはや彼は同じことを繰り返す気はなかった。ファンはいつまでも過去のヒット曲を求める。主催のシーガーも彼にフォークソングをプレイすることを求めていた。しかし、とどまるより前に進むことを望むディランの創造性はそれを拒んだ。そして、このステージの模様が映画のクライマックスとなる。
【ネタバレ注意!】フォークの祭典でフォークを拒んだことの意味