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『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』ディランの若き日を正攻法でとらえた力作 ※注!ネタバレ含みます
2025.02.28
【ネタバレ注意!】フォークの祭典でフォークを拒んだことの意味
1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルでのディランのステージは、歓声と怒号が飛び交うものとなる。フォークギターを手にひとりでステージに上がる、ディランのおなじみの姿はそこにはなかった。エレクトリックギターを手に、バンドを引き連れてステージに上がり荒々しい演奏を聴かせる彼に、フォーク信者は激怒する。それでもディランは観客のブーイングをいなして、さらにボリュームを上げて演奏を響かせるのだ。
このシーンで、ディランは観客から「ユダ!(=裏切り者!)」という、キリスト教世界にあっては強烈すぎる罵声を浴びせられるが、これが史実に正確でないのは、ファンならばご存じだろう。このヤジは1966年5月のマンチェスター公演時に観客から浴びせられたもので、対するディランは“あんたは嘘つきだ、信じない”と応じ、鬼気迫る「ライク・ア・ローリング・ストーン」の演奏に突入する。これもまた、劇中ではニューポートでのやりとりとして描かれている。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
このような改変は伝記ドラマでは珍しくない。マンゴールド監督ら製作陣は、事実を正確に描くより、ディランのスピリットを正確にとらえることを優先した。フォークミュージックの保守的な純粋主義者と決別するうえで、大観衆が集うフォークのフェスほどふさわしい場はない。主催であり、恩人でもあるシーガーとの、ある意味での決別でもあったのだから。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』は、まさに力作だ。ディランは、変わらずにその場に置かれている“石”ではなく、“転がる石(=ローリング・ストーン)”となることを選んだ。彼が1960年代に残した名曲とともに、そんなスピリットを感じて欲しい。
文: 相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
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『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
2月28日(金)全国公開
©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.