『グロリア』あらすじ
ニューヨークのサウス・ブロンクスのあるアパートに住むプエルトリコ人のジャック一家。マフィアの会計係だった彼は、組織の情報をFBIに洩らしていたため、一家ごと惨殺されてしまう。その直前、ジャックは息子フィルを同じアパートに暮らす中年女グロリアに預けており、フィルだけは生き残ることが出来た。しかし組織の重大な秘密をフィルが持ち出していたことを知ったマフィアは、グロリアの命をも狙い始める。子供嫌いなグロリアはフィルを見捨てようとするが、次第に母性本能が目覚めていく。危険を潜り抜けて行く中で、2人の間には親子にも似た愛情が芽生えていくが……。
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『レオン』から日本映画まで、与えた影響
アクション、コメディ、SF 、ラブストーリー……など、映画には大枠としてのジャンルが存在する。ジャンルはさらに細分化することも可能で、突き詰めていけば「●●のような作品」と数作をまとめることもできる。
たとえば2023年の日本映画『リボルバー・リリー』を説明する際に「『グロリア』のような映画」という表現がしっくりきた。関東大震災後の東京で、綾瀬はるかが演じる秘密工作員が、ある組織に家族を殺され、ただ一人生き残った少年を守りながら戦い続ける。国も時代も違うが、1980年のアメリカ映画『グロリア』と基本は同じである。
また、「『グロリア』のような映画」としてあまりに有名なのが1994年のリュック・ベッソンの代表作『レオン』。12歳の少女マチルダ(ナタリー・ポートマン)が父親の麻薬絡みのトラブルで家族全員が皆殺しにされ、アパートの隣室に住む殺し屋稼業のレオン(ジャン・レノ)に助けを求める。レオンはマチルダを守りながら、彼女に戦い方も教える。これ、『グロリア』とほぼ同じ物語だと言っていい。
『グロリア』(c)Photofest / Getty Images
『グロリア』では、ギャング組織の会計士が大金を横領したことで命を狙われ、6歳の息子のフィル以外、家族もろとも犠牲になる。組織の秘密が記された手帳を託されたフィルは、同じアパートに住むグロリアと逃避行を続けるが、グロリアも組織と関係をもつ裏稼業の女だった……と、『レオン』とは男女を逆にしただけのパターンである。
韓国映画でウォンビンが主演した2010年の『アジョシ』も、近所の少女を守るため犯罪組織に立ち向かう流れが『グロリア』を受け継ぐ。その他にも、デンゼル・ワシントンとダコタ・ファニングの『マイ・ボディガード』(04)など、『グロリア』の香りが漂う作品は数多く思い出される。また設定は大きく異なるが、1998年のブラジル映画で、米アカデミー賞では主演女優賞候補にもなった名作『セントラル・ステーション』は、目の前で母親を亡くした少年を、初老のヒロインが遠方に住む彼の父親の元へ送り届けようとする。彼らの関係に『グロリア』の記憶が重なった人も多いはず。
血縁関係はないが、一人では生きていけそうにない存在を守ること。そして最初こそ心が通じ合わない両者に、徐々に離れがたい絆が育まれ、年上の者には庇護者の本能がめざめ、年下の者は大人としての生き方を学ぶ……。このようなスタイルを、やや強引かもしれないが小さなジャンル「『グロリア』のような映画」と命名してもいいだろう。それほどまで、『グロリア』の設定は時を超えて観る者の心を熱くするのだ。