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『ANORA アノーラ』ゴッド・ブレス・アノーラ!アノーラに光のご加護を!

©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. ©Universal Pictures

『ANORA アノーラ』ゴッド・ブレス・アノーラ!アノーラに光のご加護を!

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生涯にたった一度の役



 『ANORA アノーラ』に感激したイザベル・ユペールは、マイキー・マディソンとの対談の中でアノーラ役を「生涯に一度の役」と称賛している。この意見に全面的に賛同する。マイキー・マディソンは生涯にたった一度の役を手に入れた。アノーラの罵倒する声、全力で幸せを求めるそのフィジカル性、プライド、叫びとメランコリー。私たちは映画が終わってもアノーラが世界のどこかで生き続けていると信じることができる。アノーラに生き続けてほしいと願わずにいられない。イザベル・ユペールは本作について、感動的な言葉を残している。「ラストシーンは私にとって宝石のようなもの。涙がとまらなかった。こんなラブシーンは見たことがない」*1


 マイキー・マディソンにとって、本作は初めて“コラボレーション”といえる作品になったという。ショーン・ベイカーは撮影の2か月前に、マイキー・マディソンは1か月前にロケ地となるブライトンビーチに降り立っている。マイキー・マディソンはキャラクターや環境に自分を馴染ませるため、現地に住み、クラブで時間を過ごし、ダンサーの付き人をしている。更にロシア語を学び、ポールダンスのレッスンを数か月受け、アノーラ役のために自分の体型を変え、ショーン・ベイカーにアノーラが纏うべき衣装を提案している。アノーラ=マイキー・マディソンのフィジカル能力の高さは、本作のあらゆるシーンで発揮されている。


 2人のリサーチとコラボレーションは、早速冒頭のストリップクラブのシーンで美しく昇華されている。基本的に脚本に忠実に撮られたという本作だが、このシーンにおけるアノーラの接客は即興で演じられたという。本編に使われたのは4分だが、ショーン・ベイカーによると30分のショートフィルムが存在するという。お金がないという客に、ATMに行こうと促すアノーラの姿が楽しい。



『ANORA アノーラ』©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. ©Universal Pictures


ネオンの青い光。本作のキーアイテムとなる赤いスカーフ。アノーラの長い髪に織り交ぜられたスパンコールは1秒ごとに色彩の輝きを変化させる。ショーン・ベイカーの映画において色彩は大きな特徴だ。本作ではいつものパステルカラーは控えぎみに、冬の寒い夜の中に映える色彩として赤と青が選ばれている。夜のラスベガス、アノーラとイヴァンはニコラス・レイ監督の『夜の人々』(48)の恋人たちのように簡易結婚式を挙げる。夜行性のシンデレラ。夜に咲く色彩。“色彩の発見”に関するショーン・ベイカーの言葉がとても感動的なので、以下に引用する。


「社会派リアリズム映画には長い伝統があり、とても影響を受けています。それらの映画のスタイルやルックが殺風景で灰色になった時代がありました。多くの苦難を乗り越えてきた人々の内面を描こうとしていたのだと思います。私はいつもそれを不公平だと感じていました。もし自分の人生を映画化してもらうとしたら、辛い時期でも灰色で味気ないだけの風景にはしたくないと思うからです。辛いときでさえ色は見えますし美しさも感じます。それを自分の映画のスタイルに反映させようと考えました。私たちはそこに色を見つけます。風景をフレーミングする方法を見つけます。そうすることで、どこにでも美しさがあるということを本当に認識できるようになると思うのです」(ショーン・ベイカー)*2




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