
© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures
『ブルータリスト』さかさまの十字架、さかさまのアメリカ ※注!ネタバレ含みます
パーソナルな一大叙事詩
あまりにも自己言及的なテーマ性。だが、ブラディ・コーベットの野心的な試みはそれだけに収まらない。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、エメリック・プレスバーガー、マイケル・パウエルといった神々を愛する彼は、ほぼ全編をビスタビジョンで撮影するという、シネフィルらしさ全開の所業をカマしてみせる。
ガワー・チャンピオン監督の『ちびっこ天使』(63)以来60年以上使われていなかった、古(いにしえ)のワイドスクリーン・フォーマット。撮影監督のロル・クロウリーは、「この映画の多くが1950年代、ビスタビジョンが誕生したのも1950年代だったので、その時代のカメラシステムを使うのが適切だと思った」(*5)と語っている。
その映像的効果は絶大だ。赤いドレスに身を包んで踊る女性。書斎のカーテンから漏れる光。イタリア・カラーラ採石場に向かう3つの影。全てのショットが美しく、全てのショットが神々しい。撮影技法も非常にチャレンジング。エルジェーベトがハリソンを告発する場面では、ステディカム→ハンディ(おそらく階段を上り下りする箇所だと思われる)→ステディカムと三度もカメラを持ち替え、ワンシーン・ワンカットに挑んでいる。あり余るほどの実験精神によって、映画としての愉悦に溢れた名シーンが誕生した。
『ブルータリスト』© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures
ある意味で最も実験的と言えるのは、映画のラストを飾るナンバー…イタリアのディスコ・ユニットLA BIONDAによる「One for You, One for Me」かもしれない。ダニエル・ブルームバーグの威風堂々たる劇伴とはあまりにもかけ離れた、ご陽気ソング。ベルナルド・ベルトルッチの『1900年』(76)、セルジオ・レオーネの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84)、ポール・トーマス・アンダーソンの『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)にも比肩し得るこの大作で、ブラディ・コーベットはなぜこのような選曲をしたのだろうか。
「理由は3つある。1つ目は、1979年のイタリアのポップソングが、1980年を舞台にした映画のラストにふさわしいと思ったから。2つ目は、“ひとつはあなたのために、もうひとつは彼らのために”という歌詞が、ハリウッドでおなじみの表現だから。そして3つ目は、歌詞に注意を払うと、とても性的に強要されていることが分かるから。(中略)もう一杯飲んで、もう少しここにいるように促し続けているんだ。この映画はエイドリアン・ブロディのキャラクターだけでなく、暴力にさらされた家族全員を描いた映画だからね」(*6)
本作には、ブラディ・コーベットの偽らざる想いが登場人物に、建築様式に、映像に(“さかさま”の十字架と“さかさま”のアメリカ)、そして音楽に仮託され、何重にも織り重なっている。まさに真のインディペンデント映画。『ブルータリスト』は、極めてパーソナルな一大叙事詩なのである。
(*4)https://www.theguardian.com/film/2024/dec/21/brutalist-director-brady-corbet-interview
(*5)https://offscreencentral.com/2025/01/27/the-brutalist-interview-with-cinematographer-lol-crawley/
(*6)https://www.gq-magazine.co.uk/article/brady-corbet-the-brutalist-interview
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
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