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『ケナは韓国が嫌いで』が描くリアリスティックな人生の手触り

© 2024 NK CONTENTS AND MOCUSHURA INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『ケナは韓国が嫌いで』が描くリアリスティックな人生の手触り

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すべてを手放した先にある真の〈人生〉



 世界を席巻している現在の「K(=Korea)カルチャー」の人気ぶりには、凄まじいものがある。ここで「Kカルチャー」が指しているのは、ノーベル文学賞を受賞したハン・ガンの小説や、ポン・ジュノ監督の映画、あるいはK-POPといった特定のカルチャーに限定されるものではない。もっと広い意味でのカルチャーだ。


 ここ日本ではとくに、これが若者たちの流行を決定づけるひとつの指針にすらなっている。都市部の繁華街などを歩いていると、この「Kカルチャー」から影響を受けたと思しきファッションやヘアスタイル、メイクをした人々で溢れ、2020年頃から韓国焼酎である「チャミスル」をいたるところで見かけるようになった。SNSを開けば、本国からいち早く最新の「Kカルチャー」の情報を入手することができる。これをデジタルネイティブ世代の若者たちが自分たちの日常に取り入れていくのは当然といえば当然の流れだ。



『ケナは韓国が嫌いで』© 2024 NK CONTENTS AND MOCUSHURA INC. ALL RIGHTS RESERVED.


 しかしこうして日本に溢れている「Kカルチャー」は、いまの韓国社会のある一面しか反映していない。事実、『ケナは韓国が嫌いで』の主人公・ケナの影は、日本で熱狂的に支持されている「Kカルチャー」の中には見られやしないだろう。けれどもこの映画の原作小説である「韓国が嫌いで」は、作家のチャン・ガンミョンによって編み出され、ベストセラーとなり、映画化された。私たちが真っ先に思い浮かべる華やかな「Kカルチャー」には含まれない、そんな人物の物語である。


 ニュージーランドに移住したケナの生活は、決して楽なものではない。アジア圏からやってきた者特有の困難があり、ここで彼女はサバイブしていかなければならない。けれどもカメラが捉えるケナは、じつに活き活きとしている。伸び伸びとしている。競争社会や凝り固まった価値観から解放されている。彼女の身には、ドラマチックなことはほとんど起こらない。ファンタスティックなものでもない。幸福を肌で感じられるいまこの瞬間を積み重ねていくだけ。それまで持っていたものすべてを手放した先に、真の〈人生〉がある。『ケナは韓国が嫌いで』は、このひとりの女性の旅路を、ただただ高い純度で照らし出すのである。



文:折田侑駿

文筆家。1990年生まれ。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、文学、服飾、酒場など。映画の劇場パンフレットなどに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。敬愛する監督は増村保造、ダグラス・サーク。



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作品情報を見る



『ケナは韓国が嫌いで』

ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋ほか全国公開中

配給:アニモプロデュース

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