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『赤い糸 輪廻のひみつ』青春と恋愛、恐怖が融合 台湾の鬼才ギデンズ・コーが描く「運命の恋」
2025.03.19
台湾文化×ファンタジー×ラブストーリー
監督・脚本は、日本でもリメイク版が製作された『あの頃、君を追いかけた』(11)のギデンズ・コー。もともとウェブ小説の作家としてキャリアをスタートさせたが、自伝的小説である『あの頃、君を追いかけた』を自ら映画化して大ヒットに導き、今では台湾を代表する映画監督の一人となった。
小説家時代にも縦横無尽のイマジネーションを発揮し、驚くべき多作ぶりを示してきたコーは、再び自らの小説を映画化した本作でも思いもよらぬ想像力を発揮している。物語のベースは冥界と人間界を舞台とするファンタジーだが、そこにシャオルンとシャオミーのみずみずしい初恋ラブストーリーと、さらに冥界に長年閉じ込められてきた盗賊・鬼頭成(グイトウチェン)が裏切り者に復讐し、長年の恨みを晴らそうとする物語が絡み合う。
ファンタジー、ラブストーリー、アクション、ホラー、コメディなど、「一本の映画に入れられるのはこれが限界!」というほどさまざまなジャンルをてんこ盛りにしたストーリーは、シーンごとに作風も変わるほどの多重反復横跳びぶりで展開する。ある場面は切なく、別の場面は楽しく、また別の場面はちょっと怖く。映画の後半にはCGを駆使した神々の戦いも待っている。
それでも映画として空中分解しないのは、登場人物たちと随所に散りばめられた要素を鮮やかにまとめ上げていくストーリーテリングと、サービス精神旺盛でエネルギッシュな演出、そして物語の根幹を支える台湾文化が全編を貫いているからだ。月下老人をはじめとする神々や死後の世界は、台湾の伝承や神話を基にしながらも現代的・映像的に変換されている。
『赤い糸 輪廻のひみつ』©️ 2023 MACHI XCELSIOR STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.
たとえば「月下老人」とはいえ全員が老人というわけではなく、若者たちが学生服に身を包んで街中や郊外に繰り出し、“月老ならではの日常”を楽しげに過ごしている。来世へ向かう人々が飲む「孟婆湯(もうばとう)」とは中国の伝承に登場する「飲むと記憶を失うスープ」のことだが、本作ではビンの牛乳そっくり(しかも自販機から出てくる)。
また、織姫と彦星を結んだという赤い糸は、冥界の天井でひときわ大きな存在感を放つ。「赤い糸は織姫が自らを犠牲にして作り出したもので……」という設定がさらりと語られるが、これは映画後半にもきっちり響いてくるのでお見逃しのないように。
楽しげでファンタジックな死後の世界と、日本ではあまり知られていない台湾文化の両方を、コーは巧みな変換によって観客に伝える。すべては日常生活に近いものとして描かれるため、たとえ台湾文化に詳しくないとしても、感覚的に理解できるか、もしくは想像できるはず。「台湾文化に詳しければもっと深く理解できたかも……」と感じたなら、ぜひ映画を観たあとに調べてみてほしい。