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『赤い糸 輪廻のひみつ』青春と恋愛、恐怖が融合 台湾の鬼才ギデンズ・コーが描く「運命の恋」

©️ 2023 MACHI XCELSIOR STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.

『赤い糸 輪廻のひみつ』青春と恋愛、恐怖が融合 台湾の鬼才ギデンズ・コーが描く「運命の恋」

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鮮やかでエモーショナルな物語術、その真髄



 もうひとつの魅力は、徹底してストイックな物語作家であるギデンズ・コーのストーリーへのこだわりだ。自身の小説を映画化する時でさえ、「一人で書く小説と大勢で作る映画は別物だ」と考え、人々を巻き込むにふさわしい物語を新たに作り上げるよう心がけているという。


 非常に作家性が強いフィルムメイカーであることは事実だ。恥ずかしくなるほどロマンティックだが、照れ隠しのユーモア(悪ふざけや下ネタとも言う)もたっぷりと混ぜ込み、ボーダレスにジャンルを横断する。自らを「『スラムダンク』世代」と公言するだけあって、『幽☆遊☆白書』や『ジョジョの奇妙な冒険』など日本カルチャーへのリスペクトも随所に忍ばせる。


 けれども目を見張るのは、かくも膨大な情報量のなか、複雑な人間関係と時間軸の操作をほとんど引っかかりなく構成する脚本力の高さだ。バラバラになったパズルのピースがつながりはじめると、物語の核心が少しずつ見えてくる。一度目の鑑賞ではすべてを見切れないかもしれないが、二度目の鑑賞では冒頭から仕掛けられた怒涛の伏線に驚くことだろう。


 シャオルンとシャオミーの初恋物語は『あの頃、君を追いかけた』を再現するかのようなシンプルさで(意外にも監督自身は無意識だったそうだ)、これをファンタジーやホラーがくるむ構造。やがてどのレイヤーにも共通して、「人が人を想うこととは?」というまっすぐなテーマが浮かび上がってくる。



『赤い糸 輪廻のひみつ』©️ 2023 MACHI XCELSIOR STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.


 先に書いたように、ギデンズ・コーは恥ずかしくなるほどのロマンティストだ。人が誰かを想うことの楽しさと苦しみを、時には観ていて赤面しそうなほどベタな演出を交えながら描く。それは「想いを諦めることはできるのか?」「その先をどのように生きるのか?」といったシリアスなテーマにもつながる。コーは、その本質を描くためには人物の想いが観客にまっすぐ伝わらなければいけないことを知っている。


 ジャンルと時系列を行き来し、ときには強烈で不謹慎なギャグを炸裂させるギデンズ・コー作品の魅力は、その過剰なまでの活発さを少しだけゆるめた瞬間に開花する。そのときにはっきりと映し出されるのは、恋に落ちる瞬間、幸せな記憶、悲しみの感情、喜びの爆発、切ない気持ち――すなわち、人が誰かと心を重ね、互いに想いを通わせる様子だ。


 伝承の月下老人は男女の縁を結ぶことで知られるが、コーが描く月下老人が結びつけるのは必ずしも男女だけではない。ジェンダーやセクシュアリティ、年齢、民族などを超えて、人々の間には運命があり、運命の先には人の喜怒哀楽がある。


 心から楽しくなれること、胸が苦しくなること、世界を現実のように感じなくなること、悲しみに打ちひしがれること、時には恐ろしい気持ちになること。それほど激しく揺さぶられるものを「運命の恋」と呼ぶのなら、観る者をぶんぶん振り回したあと、そっと心の真実にふれる本作は、なるほど、まぎれもなく「運命の恋」そのものの映画だったのだ。



文:稲垣貴俊

ライター/編集者。主に海外作品を中心に、映画評論・コラム・インタビューなどを幅広く執筆するほか、ウェブメディアの編集者としても活動。映画パンフレット・雑誌・書籍・ウェブ媒体などに寄稿多数。国内舞台作品のリサーチやコンサルティングも務める。



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作品情報を見る



『赤い糸 輪廻のひみつ』

3/19(水)より各地で再上映

配給:台湾映画社、台湾映画同好会

©️ 2023 MACHI XCELSIOR STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.

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