2021.07.31
『返校 言葉が消えた日』あらすじ
放課後の教室で、いつの間にか眠り込んでいた女子学生のファン・レイシンが目を覚ますと、なぜか人の姿が消えて学校はまるで別世界のような奇妙な空気に満ちていた。校内を一人さ迷うファンは、秘密の読書会のメンバーで彼女に想いを寄せる男子学生のウェイ・ジョンティンと出会い、力を合わせて学校から脱出しようとするが、どうしても外へ出ることができない。廊下の先に、扉の向こうに悪夢のような光景が次々と待ち受けるなか、消えた同級生と先生を探す二人は、政府による暴力的な迫害事件と、その原因を作った密告者の哀しくも恐ろしい真相に近づいていくーー。
物語とは、かくも豊かなものだったかと、感嘆のため息をついてしまう。2019年製作、映画『返校 言葉が消えた日』は、台湾発のホラーゲーム「返校 -Detention-」の初めての実写化作品だ。このゲームを基にする一連のメディアミックス作品は、どれも驚くほど精緻な翻案が見どころ。各作品に携わったクリエイターの熱意が、作品を突き破って、こちら側に突きつけられるようだ。
ゲーム「返校 -Detention-」は、インディーズ・ゲームメーカー「赤燭遊戲(Red Candle Games)」が2017年に発表した作品だ。1960年代の台湾を舞台とした本作は、その完成度の高さ、恐ろしいプレイ体験がたちまち評判となり大ヒットを記録。2019年に『返校 言葉が消えた日』が製作されたのち、2020年にはテレビドラマ版「返校」が発表され、海外ではNetflixにて配信された(日本でのリリースはドラマが先になった)。
Index
- 初の実写化作品、映画『返校 言葉が消えた日』
- 台湾史の闇、「白色テロ時代」とは
- これぞ「返校」入門編、本質を凝縮した映画版
- ドラマ版・ノベライズ版はどう違う?
- 翻案(アダプテーション)の奥行きを味わう
初の実写化作品、映画『返校 言葉が消えた日』
翠華高校に通う女子学生、ファン・レイシンが目を覚ますと、そこは夜の学校だった。そこには異様な空気が立ち込めており、誰の姿も見えない。たった一人、校内を歩いていたファンは、後輩の男子学生であるウェイ・ジョンティンと出くわした。しかし、学校を離れようとした二人の前には川の濁流が立ちはだかり、ついに校内から出ることができなくなってしまう。先生や同級生はどこに消えたのか? なぜ、二人は取り残されてしまったのか?
『返校 言葉が消えた日』予告
映画『返校 言葉が消えた日』は台湾で劇場公開されるや、ゲームと同じく大ヒットを記録して2019年度No.1の成績を樹立。さらに「台湾のアカデミー賞」と呼ばれる第56回・金馬奨では12部門にノミネートされ、最多5部門を受賞した。ゲームから派生した作品ではあるが、あくまでも一本の映画として最高級の評価を受けたのである。
日本公開にあたって「ダーク・ミステリー」と銘打たれているように、本作は原作ゲームのホラー要素をしっかりと継承しながら、ミステリー/サイコスリラーとしての要素も色濃い。ただし最も注目しておくべきは、本作が原作の本質をつかみ、凡百のホラー&スリラーとは異なる厚みをはらんだことだ。そして、この“本質”こそが、実は『返校』ムーブメントを支える最大の要因なのである。