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『返校 言葉が消えた日』ゲームの本質を凝縮、メディアを超えた翻案の可能性

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『返校 言葉が消えた日』ゲームの本質を凝縮、メディアを超えた翻案の可能性

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これぞ「返校」入門編、本質を凝縮した映画版



 「返校 -Detention-」は、この“白色テロ時代”という凄惨な歴史を、いかにしてストーリーに組み込んだのか……。それは「返校」のミステリーたる部分の種を明かすことになるので、本稿では物語の内容にこれ以上踏み込むことはしない。しかし実際にゲームを遊んでみると、この作品が、こうした歴史的背景を――すなわち物語にべったりと張り付いた暗闇を――そのまま体感させようとしていることがわかるだろう。その取り組みこそが、台湾のプレイヤーが心をつかまれた大きな理由だ。


 物語が始まるや、プレイヤーはほとんど何もわからないまま、台風の夜、誰もいない学校に放り出される。キャラクターを操作して謎を解いていくにつれ、ファン・レイシンと学校の真実に迫っていくのだ。モノクロを基調とした2Dの横スクロール画面は、背筋が寒くなるような雰囲気と美しさが同居し、同時に、やけにぺらぺらとしているがゆえの空恐ろしさもある。この場所に影のような幽霊が現れ、襲いかかってくるのだからたまらない。


ゲーム「返校 -Detention-」予告


 音楽と効果音の演出が巧みなこともゲームの特徴だ。基本的には終始静かなままで、ホラーにありがちな大音量で驚かせる演出(ジャンプスケア)がほとんどないのも作品に雰囲気に貢献している。筆者はジャンプスケアが決して得意ではないのだが、同じような好みのある方にも基本的には安心してお薦めできる。じっとりとした恐怖を存分に噛み締めてほしい。


 映画『返校 言葉が消えた日』の特徴は、こうしたゲームの特徴を丁寧に取り入れながらも、長編映画ならではの、より大衆向けのエンターテインメントとしての改変を施したことだ。なかでも潔いのは、クラシックなホラーとしての要素を大切にしており、必要なタイミングではジャンプスケアも辞さないこと。いわゆるホラー映画らしさを期待した客層への目配せだろう。


 監督のジョン・スーは、原作の2D横スクロールをそのまま再現した演出はもちろん、映画独自のイマジネーションをもって、「返校」の視覚的なおもしろさを再創造した。VR映画を手がけた経験を活かしたかのような、観客を世界に没入させるような主観ショットも印象的だ。カメラワークや構図の手つきは、かつて90年代の堤幸彦が見せたような鋭い切れ味を彷彿とさせる。日本のポップカルチャーに親しんできたというだけあって、今敏作品を思わせる虚実の取り扱い方にも注目だ。



『返校 言葉が消えた日』ⓒ 1 Production Film Co. ALL RIGHTS RESERVED.


 そして最も大胆なのは、プレイ時間およそ4時間というゲームのボリュームを、思い切って103分という短い尺にまとめた点にある。物語の要素を取捨選択し、時には思い切って刈り込むことで、この映画版は「『返校』という作品の本質とはなにか?」という問いに正面から挑んでいるのだ。ぎゅっと凝縮された作品の密度、翻案にあたっての物語的・映像的な創意工夫の数々は、“これぞ「返校」入門編”とも言える強度を保証している。





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