2021.07.31
ドラマ版・ノベライズ版はどう違う?
ゲームの世界観やストーリー、プレイ体験から本質を抽出し、それらを映画というメディアに移植しようと試みたのが『返校 言葉が消えた日』ならば、のちに製作されたドラマ版「返校」は真逆のアプローチといっていい。いろいろな「返校」体験を楽しんでいただく補助線となるよう、ここでは日本語で触れられるドラマ版・ノベライズ版についてもご紹介しておこう。
ドラマ版「返校」は、全8話構成、各話約46~56分というロングフォームのストーリーテリングが大きなポイントだ。ゲーム以上のボリュームで物語を描けることから、この作品は原作「返校 -Detention-」のストーリーをそのまま映像化するのではなく、出発点から大きなひねりを加えている。それは物語の舞台を、戒厳令が敷かれていた1960年代ではなく、30年以上が経過した1999年に移したこと。すなわち、ドラマ版は原作の後日譚なのだ。
ドラマ「返校」予告
しかしながら、ドラマ版「返校」は原作の続編というわけではない。原作の物語をほとんど丸ごと取り込んだ上で独自の物語を描く、いわばアナザー・ストーリーと考えるべきだろう。ドラマ版の主人公リウ・ユンシャンは、台北からの引っ越しを経て翠華高校に通い始めたという設定。そこでユンシャンは、一人の女学生と少しずつ親しくなっていく。物語が進むにつれ、ユンシャンは過去に起こったファン・レイシンの物語に迫っていき、同時に自分自身の問題にも対峙していく。
このドラマ版だけでも、原作や映画のエッセンスは十分に理解できる。ウェイ・ジョンティンやバイ教官など、原作・映画のキャラクターも歳を重ねた姿で登場するので、ファンにはそういった楽しみ方も可能だ。映画版との大きな違いは、原作に描かれた台湾の神話・宗教・民間伝承の要素がたっぷりと入っている点。映画版ではストーリーを凝縮するためにやむなくカットされたが、ドラマ版ではこうした台湾文化を、原作からもやや異なる角度から垣間見ることができる。ユンシャンの友人、チョン・ウェンリアンが廟(仏教における寺)の息子という設定が活かされ、舞台は翠華高校の外にも広がっているからだ。
『返校 言葉が消えた日』ⓒ 1 Production Film Co. ALL RIGHTS RESERVED.
またドラマ版では、同じく原作にあった家族劇・恋愛劇の要素も、ユンシャンとレイシンの両方にまたがってボリュームアップ。いわゆるホラーらしさは抑えられているが、身近なコミュニティが怖いという恐ろしさは強まることとなった。戒厳令当時の相互監視や同調圧力と、学校という社会におけるそれらが重なる構造は巧み。原作を基に、才能と嫉妬、現代社会に通じるテーマなども織り込んだ作劇は、ハードな青春物語としてのテイストが強く、日本でいう野島伸司作品などにも近いだろう。ドラマという長尺ならではの補完と新解釈がなされた一作といえる。
なお、角川ホラー文庫から発売されている小説版「返校 影集小説」は、映画ではなくドラマのノベライズ。登場人物の心理により接近しやすい描写が特徴で、ホラーレーベルからリリースされてはいるが、ドラマ本編よりも青春物語らしさをさらに強く感じられる一冊だ。『返校』に興味はある、しかしホラーというジャンルに抵抗がある、という方は、まず小説を入り口とするのも手だろう。