© 1 Production Film Co. ALL RIGHTS RESERVED.
『返校 言葉が消えた日』ジョン・スー監督 台湾史の暗部、白色テロ時代を描いたゲームを映画化する【Director’s Interview Vol.128】
人気のホラーゲームの実写映画化にして、「台湾のアカデミー賞」こと第56回金馬奨で12部門にノミネート、最多5部門を受賞。これだけの紹介で、2021年7月30日(金)公開『返校 言葉が消えた日』が普通の映画でないことは伝わるだろう。最優秀新人監督賞に輝いた、ジョン・スー(徐漢強)監督がタダモノではないことも。
女学生ファン・レイシン(ワン・ジン)は、誰もいない夜の学校で目覚めた。後輩のウェイ・ジョンティン(ツォン・ジンファ)とともに学校を出ようとするが、次々に怪異が起こり、二人の行く手は阻まれる。なぜ、ファンたちは閉じ込められてしまったのか?
クラシックな学園モノのホラーと、若い男女の青春物語が融合した先に現れるのは、幽霊よりもずっと怖い、台湾で実際にあった歴史の悲劇だ。戒厳令下の“白色テロ時代”、台湾では政府による反体制派の弾圧が行われ、理不尽な投獄と拷問、処刑が日常的に繰り返されていたのである。
「ゲームの映画化は失敗することが多い」という通説は、悲しいことにそう間違いとは言えない。しかし本作はゲームの本質を的確につかみ、“映画でしかありえない”物語と演出へ見事に落とし込んでいる。自国のネガティブな歴史を描いた原作ゲームもすさまじいが、映画版はさらなる創意工夫が凝らされた野心作だ。
ゲームから映画への翻案、そして台湾史の暗部である白色テロ時代を描くこと。“新人監督”ジョン・スーは、この綱渡りをいかにして成し遂げたのか。単独インタビューで、原作や歴史に対するこだわりを聞いた。
Index
- 原作ゲーム「返校 -Detention-」の魅力
- ゲームから映画へ、メディアを越える脚本術
- 映画ならではの視覚表現、ロケ地へのこだわり
- 名作映画への敬意、観客の反応
- コメディからホラーへの転身、次回作の構想
原作ゲーム「返校 -Detention-」の魅力
Q:もともと、監督は原作ゲーム「返校 -Detention-」のファンだったとお聞きしました。最初に映画化のオファーを受けた感想はいかがでしたか?
スー:私はこのゲームが大好きだったので、プレイした後、映画の仲間に会うたびに「誰か映画化してくれ」と言って回っていたんです。それが、めぐりめぐって自分の所にオファーが来てしまいました。本当に驚きましたが、大好きだったからこそ、引き受けた時のプレッシャーは半端じゃなかったですね。
『返校 言葉が消えた日』© 1 Production Film Co. ALL RIGHTS RESERVED.
Q:監督自身は、「返校 -Detention-」というゲームのどういった部分に惹かれたのでしょう?
スー:(ゲームの)予告編が公開された時は、1960年代の台湾が舞台としか告知されていなかったんです。だからストーリーを全く知らない状態で遊んだのですが、まず感心したのはグラフィックの出来でした。それから、ホラー要素も本当に怖かった。そして何よりも素晴らしかったのが、歴史をこれだけ掘り下げ、しかも人の心を打つという点です。私自身、歴史の痛みに強く心を打たれました。あの時代については、近年、台湾の主要なメディアやエンターテイメントにおいて、ほとんど触れられてこなかったんです。それが再び、しかもインディーズ・ゲームによって光が当てられたというのが、私にとっては大きな衝撃でした。