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『返校 言葉が消えた日』ゲームの本質を凝縮、メディアを超えた翻案の可能性

ⓒ 1 Production Film Co. ALL RIGHTS RESERVED.

『返校 言葉が消えた日』ゲームの本質を凝縮、メディアを超えた翻案の可能性

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翻案(アダプテーション)の奥行きを味わう



 ゲーム「返校 -Detention-」、映画『返校 言葉が消えた日』、ドラマ「返校」、そしてノベライズ版「返校 影集小説」と、現在の日本では4種類の「返校」を楽しむことができる(台湾では小説版「返校 惡夢再續」も2017年に発売されているが、残念ながら邦訳版は未刊)。共通するのは、どれも女学生ファン・レイシンの物語であるということと、そして本稿の前半でご紹介した歴史的背景を核に持つことだ。


 これら4作品は、基本的にはどれも同じストーリーでありながら、作品ごとにまったく異なる性質を持つ。すべての原点となった、静謐で本当に恐ろしいゲーム版。その本質を凝縮し、ダイナミックなエンターテイメントに昇華した映画版。物語に新たなレイヤーを加え、ハードな青春物語に仕立てたドラマ版。小説というメディアを活かして人物の心理に迫り、一種の“イヤミス”的な趣向を強めたノベライズ版である。



『返校 言葉が消えた日』ⓒ 1 Production Film Co. ALL RIGHTS RESERVED.


 「返校 -Detention-」から始まったメディアミックス作品の数々は、もちろん原作の強度を証明するとともに、クリエイターの翻案に対する姿勢、そして翻案によって開拓される物語の可能性を示している。ここまで本稿では、結局のところ「返校」という作品のストーリーにはほとんど言及してこなかったわけだが、それぞれの優れたアプローチだけでも十分に語りうるところが魅力のひとつだ。ゲーム・映画・ドラマ・ノベライズ、どこから入っても、きっと「返校」の世界にどっぷりと浸れるはずだ(筆者としては、ゲームに不慣れな方にはまず映画版が最適だと考える)。


 もうひとつ付言しておくならば、「返校」という作品には、白色テロ時代を描いた先人への敬意がある。80~90年代、台湾ニューシネマ期に製作された『悲情城市』(89)や『牯嶺街少年殺人事件』(91)の影響は、ゲームを手がけたヤオ・シュンティン氏、映画版のジョン・スー監督がともに認めるところ。この作品をきっかけに、ぜひ台湾の歴史や映画にもう一歩ずつ踏み込んでみてほしい。


[参考文献]

『返校 言葉が消えた日』プレス資料

周婉窈『増補版 図説 台湾の歴史』石川豪・中西美貴・中村平訳、濱島敦俊監訳、平凡社、2013年

何義麟『台湾現代史 二・二八事件をめぐる歴史の再記憶』平凡社、2014年



文:稲垣貴俊

ライター/編集/ドラマトゥルク。映画・ドラマ・コミック・演劇・美術など領域を横断して執筆活動を展開。映画『TENET テネット』『ジョーカー』など劇場用プログラム寄稿、ウェブメディア編集、展覧会図録編集、ラジオ出演ほか。主な舞台作品に、PARCOプロデュース『藪原検校』トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』ドラマトゥルク、木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』『三人吉三』『勧進帳』補綴助手、KUNIO『グリークス』文芸。



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作品情報を見る



『返校 言葉が消えた日』

7/30(金)TOHOシネマズシャンテ他 全国ロードショー

配給:ツイン 宣伝プロデュース:ブレイントラスト

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